九十二 ページ42
頬から手がスルリと落ちた。瞳を閉じた彼の名を呼ぶがそれが開かれることはなかった。
『れ…んっ…』
こんなにも守られていたと、大切にされていたとは思わなかった。それを聞いた今堰を切ったようにそれは溢れ出し蓮は泣くなと頬を撫でた。
そして笑ってくれと、そう言う彼にこんな顔を見せてるわけにもいかず笑えばそのまま瞳を閉じてしまうなんて。
蓮らしいなと思った。
「…A、何も出来なくて悪ィ」
珍しく顔を歪ませる総悟くんに大丈夫だと笑いかければ悔しそうに拳を床へ叩きつけた。
「…蓮は幸せだろうな」
『………え?』
「主人に看取られて、しかも腕ん中だ。家臣からしたら幸せでしかあるめェよ」
「Aだけじゃねェ。俺らにも看取られたんだ、それにこの顔」
幸せだと言わんばかりの顔はこの場に全然似つかわしくない。けれど、よかったと思った。
「…ンな時に悪ィがそろそろ外がやばそうだ」
十四郎ちゃんの目を向けた先には鬼兵隊と刀を交わせるうちの隊士。いつの間に鬼兵隊なんて…そこであの人の存在を思い出す。
『…ねぇ、鴨さんは?』
「先生は…」
「後でちゃんと片付ける」
近藤さんを遮り言い切った十四郎ちゃんの目に迷いはない。私は一つ頷き、蓮をその場に寝かせる。
( __後で迎えに来るから少しだけ待っててね。)
取れかけたマフラーを巻き直してやり立ち上がる。
『事が片付いたら全てお話します』
兄、凛太郎のことも。私の過去のことも全て。
一人は頷き、一人は煙草を咥え、一人は何も言わず。三種三様の反応に私は落としていた雪姫を拾い握り締めれば十四郎ちゃんが扉を開けた。
「総員に告ぐ!敵の大将は打ち取った!もはや敵は統率を失った烏合の衆、一気に畳み掛けろ!」
十四郎ちゃんの言葉に私たちは地面を蹴った。
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作者名:翡翠 | 作成日時:2018年9月30日 9時