この世界の片隅に2【土方十四郎】 (ページ38)

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八十八ページ38

「久しぶりだなァ、我が妹、そして馬鹿な忍びよ」

隊服を着ていない見慣れぬ男が私たちに声をかける。蓮がいることに疑問は感じていたが懐かしいと思ったあの笑顔を思い出せば松田くんが蓮だってことに私は気づいていたのかもしれない。だとしても何故いるのかと聞きたかったがそれは後回し、今は目の前のこの男をどうにか…。

＿＿我が、妹。

奴の発した言葉を頭の中で繰り返せばズキリと頭が痛み顔が歪む。蓮は私の前に立ったまま男を睨む。

「久しゅう再会にとんだ挨拶でしなぁ、凛太郎」

「主人の名を呼び捨てとはいいご身分だな」

「何しにきた」

「オイお前人の子と呼び捨てにしてスルーか！」

睨み合う二人の光景をただ見ているだけしかできない。

頭の痛みが増してゆく、耐えられなくなり蓮の背中を握れば振り返り血相を変えた。

「姫！！！」

「フッ、記憶なくしてるってのはァ本当らしーな」

「近寄るでないでし！！！！」

蓮の肩口から見えた目には憎しみが滲み出ていて、その顔に背筋が凍った。

ーーー私はあの顔を知っている。

「A、思い出せねーなら思い出させてやろーか」

「やめるでし！！」

「やめるわけねーだろ！！」

目に涙を浮かばせた男は悲しそうに憎しみを込めるように私を見つめる。

「記憶がねェだ？都合良すぎんだよ！お前はなァ！！」

『や、だ』

「姫！！凛太郎やめるでし！！」

今まで感じたことのない痛みが襲ってきて吐きそうになる、震えが止まらない。何度も姫と呼ばれている気がするがそれは遠のいていく。

目を逸らしたいのに固まったように首も目も何もかも動かない。呼吸ができなくなりそうになる。

＿＿＿ニタリ、と男が笑う。

「俺の両親殺したんだよ！！」

お前が殺したんだ！！

流れ込んできたものに私は涙を流すしかなかった。