五十四 ページ4
ノックもせず、スパンッと音を立てて襖を開ける。
必要最低限のもの以外見当たらないその部屋の真ん中に敷かれた布団は丸みを帯びている。ゆっくりと近くへ腰掛ければそこへ手を伸ばす。
触れれば吃驚したのか一瞬揺れた。落ち着けるように掛け布団の上から優しく撫でる。
「A…」
感触から私だと気づいたのか総悟くんは顔を見せてくれた。その顔には疲れが見えていて、目も真っ赤だ。
寝られていないのは一目瞭然だった。手を一定のリズムで動かしながら葬儀が終わったことを告げれば力無い返事が返される。
いつもの威勢の良さは何処へやら。彼との歯車が噛み合わないのは気持ちが悪い。
__調子狂うな。
顔を覗き込み『いつまでそうしてんのよ』と言えば思い切り睨みを効かせる。
「…てめェには関係ねーだろ」
寝返りを打って反対側を向くその姿はもう構うなと言ってるみたいで。
でも撫でる手を退ける気はないところを見ると反面放っておかれたくないという気持ちも見えなくはなくて。
…背を向ける前に一瞬だけ見えた悲しそうな顔が離れない。
『いいんだよ、泣いて』
「…は?」
あまりにも自然と出たその言葉に怪訝な表情をしているのが瞼に浮かぶ。けれどそれはまぎれもない本心で、今一番言いたかったことで。
そっと肩に触れ此方へ向かせてやれば目が潤んでいた。よしよしと子供を宥めるみたいに頭を撫でてやる。
『もう、十分だよ』
そう言い切る前に総悟くんは私の膝に顔を埋める。遠慮がちに腰へと回った腕は何かを求めるように力が強くなる。
空いている手を背中へ落とせば トン、トン とリズム良く叩いてやれば堰を切ったように嗚咽が漏れだした。私はそれに気付かぬ振りをし背中をさすった。
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作者名:翡翠 | 作成日時:2018年9月30日 9時