この世界の片隅に2【土方十四郎】 (ページ3)

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五十三ページ3

『十四郎ちゃん…ごめんね、ありがとう』

「気にすんな、俺ァ何も見てねェよ」

漸く落ち着いた私だがまだ視界が歪んでいる。晴らすように袖で目元を拭えば綺麗な茜色がいっぱいに広がる。それは私に大丈夫だと言ってくれてるような気がした。

木の軋み誰かが此方へ歩いてくるのが分かる。十四郎ちゃん越しに音の方へ目を向ければ近藤さんとザキちゃんが見えた。

その腕の中には納骨袋。隣のザキちゃんは泣いたのか目が赤い。

＿＿大分時間経っちゃったのか。

そう言えば空の色も茜に変わっていたなと。腰を上げ近藤さんの元へ歩けば腕の中に手を伸ばす。

触れたそれはただの布だったが何処か温かい何かに触れる。そっと頬を撫でられた感触に挨拶に来てくれたと思った。

『ミツバちゃん、いってらっしゃい』

出かける子供に声をかけるように口にすれば＂いってきます＂という声が聞こえた気がした。

引っ込んだ筈のものがまた顔を出そうとするが再度頬に伝わった感触にそれはスッと何事もなかったように消えた。

「近藤さん総悟は結局出てこなかったのか」

「あァ…山崎が声をかけたんだがな」

ミツバちゃんが亡くなった後、総悟くんは部屋にこもりっきりになっているとさっき原田が言っていた。

身内を亡くしたのだから無理もないかと空気が重くなる。それを攫うように柔らかい風が私達の髪を揺らす。

ミツバちゃんとは数え切れない程の約束をした。何かと問われれば些細なものから人生を左右するものまで、沢山。けれどそれは守れたものよりも守れなかったものの方が増えてしまった。

だからこそ、この約束は絶対に守らなくてはならないと思った。

『総悟くんのところ行ってくる』

近藤さんが頼むと頷いた。