六十八 ページ18
私を抱き起こす蓮の顔は今まで見たこともない焦った顔をしていて、そっと頬を撫で大丈夫だと告げればホッと息を吐いた。だがまだ眉が寄っている。
「どうしたんでし、姫」
『蓮…水瀬、水瀬凛太郎って誰』
蓮の顔色が一瞬で変わる。険しくも悲しそうな、なんとも言えないその顔に私は悟る。
___私の知らないことを知っていると。
「姫…何故それを」
『山崎との会話、聞いてたでしょ』
蓮から離れ、座布団の上に座り直す。まだ頭は痛むがさっきよりはマシだ。
気まずそうに目を逸らしたあと、首を縦に振る。会話を聞いていたということは彼はその人物を知っている。そしてきっと、私の無い記憶に関係しているのだと思った。
『…蓮、私とんでもないこと忘れてるんだよねきっと』
確信はなかった。だが痛む頭がそれを物語っているようにズキズキと痛みを増す。蓮の手を握れば逸らしていた目をこちらに向ける。今にもその目からは涙が溢れ出しそうなくらい潤んでいた。
「姫、その考えは間違ってないでし。ですが…ですが、まだ思い出さないで下さいまし
もう、貴方が苦しむところを見たくないでし」
握り返された手には小さな震え。何に怯えているのか、そんなこと聞けなかった。初めて見た蓮の姿に戸惑ってしまい言葉が出なかったのだ。
私は何を忘れているのか。
何があったのか。
早く思い出したい、けれど思い出したくない。
『…何忘れてるの私は』
風が部屋の中へ吹き込み髪を揺らす。
蓮は悲しそうに笑うだけだった。
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作者名:翡翠 | 作成日時:2018年9月30日 9時