この世界の片隅に2【土方十四郎】 (ページ2)

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五十二ページ2

『…よかったの、お別れしなくて』

「その言葉てめーに返してやるよ」

『行く気になれないんだよね』

そう言って笑えば涙が出そうになる。ギュッと唇を噛み締め、膝のあたりを握り締めた。

着物にシワが寄るなぁなんてことを考えられる頭はまだあるみたいで。だがこの気の持ち方もそんなに持つ気がしなく、そこ逃げるように立ち上がろうとした。
が、それは

『十四郎ちゃん…？』

彼の腕によって制され元の場所に戻された。

「なんて顔してんだよ」近いところから声が降ってくる。肩を抱き寄せられたと気づくまで暫く時間を要した。

＿＿…なんで、なんで私ギュッとされてんだ。なんで素直に此処に座りなおしたんだ。

ぽけっとしていたら頭から降ってきたのは泣けという言葉。

『何言って「泣いてねェんだろ」

「山崎に聞いたんだよ、お前が泣いてねーってな」

余計なことを言った馬鹿は後で絞めてやろうと思っていれば背中に左腕が回り、そのまま優しくさすられる。

＂優し過ぎて気持ち悪い＂なんて悪態を吐く余裕もなかった。

堰き止めていたものが壁を崩すように溢れ出してくる。

『もう…泣いても、いいかなぁ』

袴の裾をギュッと掴めば彼の腕の中に収まり、ゆっくりと頭を撫でられる。ポロポロと雫が落ちて染みが何個も何個も出来ていく。

「…あァ、もう十分だ」

それをきっかけにダムは崩壊した。

＿＿正直、ずっと泣いちゃいけないと思ってた。

彼女を想っていた十四郎ちゃんの
弟の総悟くんの

二人の為に私は笑っていなきゃって。私は前に立ってあげなきゃって。でもそれはお門違いだったみたい。

やっと実感した＂死＂というものに私はただ声を上げて泣くことしかできなかった。