19話 ページ20
今日はやけに月が綺麗だな、なんて柄にもなく少し感慨にふけりつつ蒼斗は並々とつがれた手元の日本酒を口に含んだ。
ふと見上げた満月は怖いくらいに美しくて、雅を愛する歌仙でなくとも思わず目を奪われるほどだろう。
『主、さま…?』
部屋の中の騒がしさとは大違いに、静まりかえった暗闇の中で鈴のような声が響いた。
振り返ると少し不思議そうに首を傾げるAの姿が目にはいる。
ちょこちょこ寄ってきて隣行ってもいいですか?と伺う彼女に、ああ、と一言呟いて早く来いと言うように手招きした。
『姿見えないなって思ってましたけど、こちらにいらしてたんですね』
「さっきまで大倶利伽羅とか山姥切とかと呑んでたんだけどな。何となく1人になりたくて」
ふわり。隣に座った彼女からほのかに酒の香りがするようだ。
大方、次郎太刀あたりが酔って絡み酒でもしてきたのだろう。酔いの熱を冷ますようにAは手で着物から覗くその首元を軽く扇いだ。
「どうよ、あいつらは。これからやっていけそうか?」
本丸の庭へと向けられていた瞳がこちらを向く。いくら兄達がいるとはいえ女子1人で心細い気持ちもあるはずなのに、それでも嬉しそうにAは笑った。
『はい。私、よく人見知りするんですけど皆さんは違うっていうか何ていうか…』
ほんと何ででしょうね?なんてクスクス袂で口を隠しながら楽しそうに表情を変える。
「ははっ、それなら良かった。一癖ある奴もいるけど基本優しい奴等だからな、俺が保証する」
何にせよ、Aがこの本丸にこれからもいたいと思えたのならそれでいい。
あの妹思いの清光と安定も一安心だろう。
「…なあ」
ふと、先ほどから少しだけ気になっていたこともあり気付けばそう口をついていた。
「主、って呼びづらいか?」
『え…』
「いや、やっぱりまだ恐る恐るって感じだったから。前の主のこともあるだろうし、無理はしなくていい」
いきなり呼び起こされた彼女にとって心の整理もつかないままでは辛いだろうと。
もちろん昔の思い出を忘れなくていいから、もう大丈夫だと、呼びたくなったらいつかその時でもいいからと続けようと思った言葉は、静かに首をふった彼女に緩く制された。
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作者名:ルイス | 作成日時:2016年10月25日 0時