1話 ページ2
「おーい、安定。」
ふと己の名前を呼ばれて見上げれば、そこには竹箒を手に自分と色違いの内番姿をした加州清光がこちらを少し不機嫌顔で見下ろしていた。
「………なに。」
「なに、じゃないよ。今日は俺達で馬当番の日なんだからちゃんとやってよね。」
「…やってたよ、」
さっきまで、だけど。
どこか気の重そうな安定をため息まじりに見やって、全くこれじゃあ主に怒られちゃうじゃんと清光はぼやきをもらす。
安定が座っていた縁側の隣に腰を降ろせば結局お前も休むのか、と言った目線を送られたがそんな言いがかりは止めてほしい。
「ちょっと、俺お前の分まで頑張ったんだから。これで貸し一つ。」
「はいはい。悪かったよ、ブス。」
「はあ!?俺は可愛いもんね!」
なんて、いつもと変わらないやり取りをしたら少しは調子出てきたことはコイツには言わない。陰でクスリ、と笑いながら隣でむくれる清光の頭を小突いてやった。
空は雲一つない晴天で、よく風景画で表されるような綺麗な水色。向こう側では短刀達が遊んでいて、その彼らを溺愛する兄や他の打刀や太刀の姿まで見えた。空の色に昔の主人が着ていた羽織を重ねると思い出されるのはあの頃の情景。
清光と僕ともう一人の小さな少女。
思い出の中の彼女は花が綻んだみたいに微笑んで安定兄さまって、そう笑いかけるんだ。
「ほんとあいつら元気いいよねー。」
自身の真っ赤に塗られたマニキュアの指先を弄びながら清光は呟いた。そうして懐かしむように彼もまた空を見上げる。
「俺達もさ、ああやって遊んでたよね。毎日毎日。」
「…………………。」
あぁ、やっぱりなんだかんだであの時代を一緒に過ごしてきた仲間だ。
同じ時を同じ主の元で戦ってきたのだから自ずと相手の考えていることぐらい分かってしまう。認めたくないけど、腐れ縁みたいなものかもだけど、どうやら僕と清光は似た者同士らしい。
何も答えずに僕もただ空を見ていると、ねぇ、と清光が言葉をもらした。
「いつになったら、会えるんだろ。」
「は…?」
「だからさ、あの子に……Aには、いつになったら会えるんだろうね。」
その問い掛けには答えられなかった。いや、答えが分かってるからこそ言葉にするのが怖いのだ。
こいつだってそんなのずっと前から分かってるくせにそれでも哀しそうな笑顔をしながらあいつを想い続ける。
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作者名:ルイス | 作成日時:2016年10月25日 0時