頑張れよ山田 ページ8
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一度は名前を聞くのを忘れ、今度は連絡先を聞くのを忘れていた。
その日の夜にいのちゃんを家の近くの居酒屋に呼び出し話をした。
一部始終話をした所、いのちゃんはやれやれ…と言いながら、それでも口元をにやけさせていた。
「春だねぇ〜山田ぁ〜」
「いや夏だけど」
いのちゃんはやたら嬉しそうな表情で「よかったよかった」とニマニマ笑っている。
「ねぇ、気持ち悪いんだけど」
「いやー、山田にも春が来たんだなって思ったら嬉しくてさー」
まぁ、本気で誰かを好きになったって事、無かったもんね。
今まで散々遊んだ分、もしも仮に、奇跡が起きて彼女と…Aさんと付き合えたら。
誠心誠意で、精一杯彼女を愛してあげたいと思っている。
どんな困難が来ても、彼女だけは絶対に守る。
喧嘩すらした事の無い俺だけど、きっと、命に変えても守り抜きたい。そう思ってる。
「純愛だねぇ〜。ちょっと重いけど」
「うるせ」
「あー、ごめんごめん。つい本音が出ちゃった」
ビールを片手に、いのちゃんは何度もそうかそうかと口にした。
俺もいのちゃんもあまりビールは得意じゃないが、いのちゃん曰く、夏のビールは冬のコタツと同じくらい人をダメにする存在だそう。
「でもその子、本当に良い子なんだろうね。山田に付き合う前からそこまで思わせるなんてさ」
「…うん。凄い清楚で…朗らかで…」
「え、何それやば。そういう子程マッチングアプリ使いこなしてたりするんだよな〜」
「う…やめろよそんな事…」
いのちゃんは笑いながら冗談だよ!と言い切った。
が、もしもそうだったらどうしよう…なんて、らしくない事をつい考えて。1度考え出したらもう止まらなくなって、頭から離れなくなってしまった。
「頑張れよ山田」
「…うん、ありがとう。いのちゃんのあの一言のせいですっごい不安なんだけどね」
「あー…ごめんごめん。それは本当に謝る」
本当に、とんだ大迷惑だ。
と言っても、いのちゃんのお気楽さにはいつも励まされている事だし、今度何か、お礼でもしないとな。
“それに、また会う口実ができましたから”
明日もまた、あの子に会えるかな。
彼女がいいと言っていたあの曲を何度もイヤホンでリピートしながら、軽い足取りで家まで帰った。
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作者名:L | 作成日時:2021年12月11日 10時