またお弁当作ってください ページ16
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過保護?
過保護って、何の事だろう。
もしかして俺…今もの凄く引かれていたりしないか?
突如不安が押し寄せてきた俺は、電車を降り、ホームに着いてすぐに尋ねてみた。
「もしかして、引きました?」
「え、引く?どうしてですか?」
…あ、その反応はどうやら違うらしい。
思わずホッとした俺は、なんでもないです!と元気よく答えた。
「行きましょうか!」
「はい!」
でも確かに、ちょっと考えてみれば俺は過保護すぎたかもしれない。
痴漢の心配をするのはもちろん男として当たり前の事だと思うが、揺れる度に大丈夫?って聞いてしまったのはさすがにやりすぎだったかもしれない…。
そう思った途端に俺はやってしまったという念に押し潰されそうになった。
「…あ、やっと着きましたぁ!って、え、山田くん…!?」
彼女の声でハッと我に返った。
考え込みすぎたせいでうっかり通り過ぎるところだった。
慌てて「ごめんなさい!」と声を上げると、周りの通行人が一斉に俺に視線を向けた。
「や、山田くん…」
「う…すみませんでした…」
気を取り直して水族館の方へ戻り、受け付けで2枚分のチケットを購入した。
ここでもAさんは自分にも払わせてと頼んできたが、そんな事はできないとキッパリお断りした。
「あ、でも一つだけ…。また、お弁当作ってください」
「え、私のでいいんですか?」
「Aさんのが、いいんです」
彼女は照れ臭そうに「何それっ!」と笑ってくれた。
それが嬉しくて、俺もつい笑顔を返した。
「水族館に来ると時々思うんです。このお魚美味しそうだよなって」
「あ、分かります。俺もです」
「え…あの魚って食べれるんですかね?美味しくなさそう」
Aさんは食べる事が好きな人なんだろうか。
それとも、食べ物の好物が魚なのだろうか。
水槽に両手を貼り付けながら真剣に眺める彼女をすぐ近くで眺める。でも、どっちが正解にしろ可愛いよな、やっぱり。
「Aさん、ちょっとこっち向いてください」
「え?」
振り向いた彼女を、俺は手持ちのスマホで一枚激写した。
彼女は慌てて「あ!ひどいです!」と駆け寄ってきて、消すように必死に訴えてきたが俺は消したフリをして誤魔化した。
この時、不意打ちでも撮っておいてよかった。
そう心から思えるようになるのは、もっともっと先の話だ。
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作者名:L | 作成日時:2021年12月11日 10時