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第四十話(5) ページ42

ゆらゆらと風に揺れる白い花を暫し見つめていると、半助の問いに答えようとゆっくりと鈴が口を開く。

「おかえりなさい、と」

「え?」

予想もしなかった答えに、半助は思わず聞き返してしまう。

そんな半助の反応を予想していたのか、鈴は中庭を見たまま話を続けた。

「彼の問いの答えになっていないことは分かっています。ですが、問いの正解など何処にもありませんし、彼の求める答えは彼自身でしか見つけることはできない、見つけなければならない。だから」

一つ、呼吸を置いて鈴は言う。

「おかえりえりなさい、と。私に言えることはそれだけ。何処で何をしても今の彼が帰ることのできる場所は此処で、どんな彼であっても待っている人がいる場所も此処でしょうから」

「………っ、」

その言葉に、半助は静かに息を飲んだ。

こんな、単純な言葉だったんだ。

自分が出せずにいた答えは。
自分が探していた答えは。

こんなにも、単純で簡単で…優しい言葉。

どんな事が起きても、どんなことをしても、帰る場所があるということ
どんな自分であっても、待っている人がいるということ
その全てを受け入れてくれる存在があるということ

人は求めてやまないのに、人はすぐその存在のことを忘れてしまう。

さあっと一際強い風が吹く。

まるで半助の心の靄を晴らすかのように。

吹いた風につられて鈴を見れば、中庭を見つめるその瞳は柔らかく細められいて、その横顔は穏やかで、優しい。

その横顔に、柔らかな雰囲気に、そして彼女の紡いだ言葉に、胸が甘く締め付けられる。

それは、先程感じた重苦しいものでもなければ、ここに来るまで自分を悩ませていた息苦しいものとも違う。

甘く、切ない、そんな言葉が似合うような、まるで涙を流す前に鼻の奥がつんと熱くなるような感覚。
もし自分が、今幼子であったなら彼女の元へ駆けて行って大声で泣き出しただろう、そう思うような。

暑い日差しの下で、龍に己の過去を話した、少し前の夏の日を思い出す。

あの時、自分は己の過去を悔やむ事は止めることにしていると言った。

その言葉に偽りはない。

だけど、いくら自分にそう言い聞かせたところで、そう簡単に心は己を許すことも認めることもせずに、過去が、過ちが、後悔や恐怖となっていつまでも心の奥底に巣喰い続ける。

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設定タグ:忍たま , 土井半助 , RKRN   
作品ジャンル:アニメ
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ししゃもん(プロフ) - 千里丸さん» コメありがとうございます!同じ好みの方がいて嬉しいです!引き続き頑張ります!今作品が終わったら別キャラの忍たま夢にも挑戦する予定でいました。加えてシチュのリクもありがとうございます。できうる限りご期待に添えるよう取り込みたいと思います! (2019年4月1日 23時) (レス) id: 2f089d0de5 (このIDを非表示/違反報告)
千里丸 - 二度コメ失礼します。希望としては、夢主と男装夢主が同一人物であることが土井先生より先に誰か(以下A)にばれてしまい、秘密を守ってもらうためAと話すことが多くなってしまい、土井先生が嫉妬…みたいな展開が見てみたいです。ご検討いただければ幸いです。 (2019年4月1日 9時) (レス) id: 1ee468ee2e (このIDを非表示/違反報告)
千里丸 - 忍たま夢小説では数少ない作りこまれた設定、大好物です。睡蓮さんの考えるお話の設定はすごく好みなので、この小説が終わったら、忍たまの別キャラでも書いてほしいです。ご検討いただければ幸いです。とりあえず今は、「花菖蒲と蓮華草」を頑張ってください! (2019年4月1日 9時) (レス) id: 1ee468ee2e (このIDを非表示/違反報告)
睡蓮(プロフ) - たまさん» ありがとうございます!糖度低めのお話ですが、胸キュンしてもらえて嬉しいです!これからもよろしくお願いします! (2019年2月21日 11時) (レス) id: 2f089d0de5 (このIDを非表示/違反報告)
たま - 土井先生の夢小説を求めて辿り着きました( 〃▽〃)これからも胸キュンストーリーを楽しみにしてます! (2019年2月21日 0時) (レス) id: 01fbcb5691 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ししゃもん | 作成日時:2019年2月9日 13時

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