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ほんとうに、なぜ、わたしなんかがそんなに好きなのだろうね。宮廷には美姫麗人がいくらでも群れをなしているだろうに。
たしかに、わたしとトントンは幼なじみだ。わたしは先ほど述べたように卑しい下級貴族の出身に過ぎないが、わが母が彼の教師を務めていたため、幼少期、しばしば遊ぶ機会があったのだ。
どうやらトントンはその頃にわたしのことを好きになってしまったらしい。つまりはもう十年以上もひたすら一途にわたしを想ってくれていたわけだ。虚仮の一念と云っては何だが、信じられないようなひたむきさである。何かカンチガイをしているとしか思えない。
わたしが彼のその想いを知ったのは、つい先日のことに過ぎない。それまでの間、わたしは別の男性と付き合ったりもしていた。あげくの果てには、婚約したりすらしていた。
まあ、わたしがもう恋愛しないと誓ったのも、すべてはその男が原因だ。つまり、あの男に云い寄られるまえにトントンから告白されていたなら、そのままかれと結ばれていた可能性もある。
トントン王子、怨むならあのろくでなしを怨んでね。
◇ ◆ ◇
と、わたしが深いため息を吐いた、そのときだった。突然、どたどたと小走りに駈け寄って来る音がして、部屋の扉が音を立てて開いた。一瞬、トントン王子が帰って来たのかと思ったが、そうではなかった。
そもそも上品なかれはこのような騒々しい音を立てない。そこにあらわれたのは、不幸にも、わたしがこの世でいちばん見たくない顔だった。
「よっ、帰ったぜ！A」
「……ルイス。なぜ、ここに？」
その言葉が一瞬遅れたのは、反射的に何か物を投げてやろうかと思ったからだ。これからは護身用に武器のひとつも用意しておく必要があるかもしれない。こんなろくでなしが平気で入って来れるのだから。
「なぜとはひどいな。ここはおれの家だぞ。帰って来て何が悪い？」
「いつからわたしの家があなたの家になったのかしら？この家は父から受け継いだもので、わたし個人の所有物なのだけれど」
「冷たいことを云うなよ。俺達は婚約者だろ」
「ふざけないで。お前は強い女だから平気だろうなんて云って、浮気し、婚約破棄をしたのはあなたでしょう！」
わたしはケモノのように獰猛に歯を剥いた。そうなのだ、このルイスこそ、わたしの恋心を一方的に利用し、金をだまし取り、その果てに別の女のところに去っていった、その人物に他ならないのである。
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作者名：〇 | 作成日時：2022年6月25日 16時
