【tn】たった一人の王子様 ページ5
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「あんたを愛しとる、A」
と、その人は、わたしの皓くほっそりした指を手に取った。
「この世のだれよりも何よりも尊い方。あんたの存在が俺にとっての光や。あんたがおらへんかったら、世界は闇に閉ざされてるようなものやねん。毎朝、起きたときにあんたのこと想うことが俺の幸せ、ほんで、あんたと逢われへんで終わる一日こそ俺の苦しみなんや。どうか、俺を受け入れてくれへん?俺をあんたなしでこの先も生きていくっちゅう地獄に突き落とさんといてくれ。お願いや、A」
わたしは茫然とその情熱的な告白に聞き惚れた。他の人が口にしていたら恥ずかしくてたまらなくなるような美辞麗句に聴こえるところだが、彼の口から洩れると珠玉のセリフと思われた。
並大抵の男が口にしたら冗談としか思えない言葉も、彼ほどの美形が云うと恐ろしいほどの攻撃力を発揮する。もう少しで簡単に心臓を射抜かれて「はい」とうなずいてしまうところだった。
わたしはその展開を避けるため、強烈な吸引力がある彼の瞳からどうにか視線を逸らした。美形は眩しくて目に悪い。
「その、せっかくですが、トントン様。わたしは身分低き下級貴族の身の上。しかもどこにでもいるような凡庸な女でございます。貴方様ほどの方のお言葉はもったいなく思います。どうか、わたしのことは忘れて、他の女性と幸せなご家庭を作ってください」
わたしがそう口にすると、王子は目に見えて悄然とうなだれた。
至上の造形美の人だけに、そのようにしょんぼりされると、異様に罪悪感をそそられる。しかし、トントンは哀しそうに目を伏せたまま、わたしの指を離そうとはしなかった。
「そうか…。A、あんたは俺を選ぶつもりはあらへんちゅうことか。俺のようなおもんない男は眼中にあらへん、こないに云い寄られることも迷惑や、と」
「そ、そんなこと云っていません!」
「せやけど、俺の告白を拒絶するとはそんなんやろう。あんたがそう思われるのも無理はないわ。たしかに俺は退屈な男や。せやけど、ことあんたを想うことにかけては、だれにも負けへん自信があるんや。……A。俺の太陽。俺はあきらめへんで。必ず、何としてもあんたの心を射止めてみせる」
そのまま、それ以上は無言でこの部屋から立ち去ってしまう。わたしはあたかも倒れ込むようにして自分の椅子に座った。女性が苦手だと聞いていたのに、そんなのは嘘じゃないか。
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作者名:〇 | 作成日時:2022年6月25日 16時