【759】 ページ9
..
だから。望み通りセンターノヴァになるから、その代わりに。凪沙にも00にも、これ以上手出しをしないでください。智恵理は必死に頼んだ。
きっとこれが……今日まで00に迷惑をかけてきた自分が仲間のためにできる唯一のこと、ううん。自分にしかできないこと。手のひらの上だということは智恵理にも分かっていただろう。
凪沙が驚くのを他所に、彼の口元は弧を描く。出入りの扉が開いて『来たまえ。君の輝きを見せてくれ』。これを最後に映像も途切れた。
智恵理は凪沙を見ない。そのまま行ってしまおうとしたため、思わず立ち上がって手を伸ばした。美果子の聴取中に駆け出したときみたいに再度止める。なんだか、もう二度と会えなくなるような気がしたのだ。
「凪沙……今まで本当にありがとう」
「！」
「ぶつかってくるわね……、父と」
「あっ……！」
彼女は智恵理の右腕を掴んだ。しかし、別れの挨拶と共にほどかれてしまった。
父親と話したいと言っていた智恵理。やっと、会える。家族の問題に他人が過度に口を出すべきでは無い。それは凪沙にも分かってはいたけれど……事が事。ついに安永と部屋を出てしまう智恵理へもう一度……！
だけど、一歩遅かった。閉まる扉とSPの手に阻まれて先には行けない。
「智恵理……」
.
退室後、智恵理は通路を堂々と歩行する。安永は一歩後ろを歩いていた。すれ違う社員はお嬢様がいることに怪訝な顔はしない。気づいたら立ち止まって会釈、そしたらまた仕事に戻る。
そんなことが何度かあったけれど。智恵理の頭には00と、父親のことだけ。だから……向かいから歩いてくる知った顔にすぐに気づけなかった。
「君は……！」
「？ ……あ、えっ。凪沙のお父様！？」
かつて、こうも思った。智恵理は、自分が凪沙たちをライブに誘わなければ凪沙の父親も投獄されることはなかったと。凪沙が00になろうと決心した原因を作ったから。
研究生によるライブが成功して、撤退する前。凪沙に厳しい視線を向ける彼女の父に負い目を感じていなかったと言えば嘘になるだろう。
「どうしてここに……」
「君の方こそ」
俯いていた顔が数秒だけど晴れる。少しだが、智恵理は無理やり口角をあげた。「凪沙は無事です」と、その親に目を見て告げる。
言われた方には安心が滲んだ。秋葉星はDES軍に占領され、一部メンバーは現在も行方不明。娘の生存を思わぬ形で知る事が出来たのだ。彼は、智恵理に感謝の言葉を返した。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 37人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：東雲れーた | 作成日時：2024年3月16日 19時
