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初めての握手会。77期研究生で、織音の中で、第一号。
母親が「やよい」と呼んだ女の子にありがとうって言わないと、と助言する。しかし、お礼を言ったのはやよいちゃんではなく織音の方だった。
その目には涙が浮かんでいる。幼馴染である凪沙と友歌までもがもらい泣きをしている。私も……まあ、ちょっとは潤んでしまったけど。
「Aって、意外と涙脆いよね。映画とかもそう」
「うるさい智恵理」
「ハンカチ使う？」
「……持ってるから大丈夫。ありがとう」
目尻をチョンチョン、と優しく押し当てて拭く。その後、時間が来てバイバイと織音のファンを見送った。
しかし次に視界に映ったのは、私にとっては悪魔と称しても過言ではない奴だった。ため息はなんとか抑える。みんなの前だから。顔も平静を保っていると思う。仕事中だから。
「久しぶり、会いたかったよ！ お姉ちゃん！」
「来るなら前もって言ってよね。……燈」
「「「お姉ちゃん！？」」」
数秒前との落差がすごい。呑気にそんなことを最初に思った。大袈裟に私の方へ手を振る妹の名前を呼ぶと、同期たちの声が重なる。やめて、こっち見ないで。
燈は完全に外面だ。呆れていたら彼女は楚方に握手を求めた。こちらもプロモきっかけで楚方のファンになったらしい。推しはたかみなさんのはずだから複数推しだ。
「はじめまして、妹の燈です！ いつもお姉ちゃんがお世話になっています。楚方ちゃん、実物の方が可愛いですね！」
「ありがとう！ るーりんはクールなお月様って感じだけど、あなたは太陽みたいに笑うんだね。お日様はサンサンしてるから〜……今日からあなたのこと、"サンちゃん"っていうニックネームにしよ！」
すぐ傍で交わされる会話を右から左へと流す。内容……というか、燈の声をあんまり自分の中に入れたくないのだ。
……と、思っていたのに。「時間です」と言われて彼女は行こうとして「お姉ちゃん、」と私と目を合わせる。
「お母さんが、これが最後のチャンスだって。迷惑、かけたくないでしょ？」
「……………」
楚方へ手を振って燈はここからいなくなる。なんか、ドッと緊張した。実の妹と会っただけで消耗するなんてバカじゃないのか？
みんなの視線を感じる。キララも影からコソリと顔を出していた。私は鈴子に呼ばれる。
「Aさん、今のって……」
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年7月1日 14時
