086# 望まない客 ページ36
▼Suzuko
同じ目。わたしが、Aさんの手の怪我を指摘したときと全く同じに見えた。妹さんを見る目が。
ソナティ推しだとおっしゃるから『分かる』と思ったのもつかの間、彼女たち姉妹の目が合うと何故か空気が張り詰めたような気さえしました。
「るーりんも妹いたんだ〜」
「まあね」
「言ってくれたらよかったのにぃ」
「………そんなことより、ほら。やっと来てくれたみたい」
77期の握手会も本番だ、とでもいうようにソナティの気をそらす。そのときAさんと一瞬視線が絡みました。でもすぐに途切れ、目の前に立つファンの方に移る。
そうです、今日はわたしたちのお披露目。真摯に対応しなければ今後に大きく影響する。わたしだって、わたしの大好きなAKB0048を愛するファンの好意へ精一杯応えたい。
Aさんの気になることはとりあえず頭の隅に寄せて、わたしも握手会へスイッチを切りかえた。
▽
『Aちゃんこんにちは！ いつも投稿見てるよ〜』
『たかみなと仲良いの？ プロモで君も気になってて、推しと友好的ってなんだか嬉しいな』
『楚方ちゃんにるーりんって呼ばれてるんだ。わたしも呼んでいい？』
一言で表すなら、とても幸せな時間。正直私になんて誰も会いにこないと思ってた。
こうして真正面から好意というものをぶつけられるのはあまり経験がない。そのため「ありがとう」「はい」「また来てください」とか、在り来たりな返事しかできないでいた。う〜、誰か私に会話を広げるコミュ力をください…。
「またね〜」
「はい、待ってます」
子どもから大人まで、性別問わずに会いに来てくれる。そのことに感謝しているのは私だけではない。皆もだった。
それぞれ嫌なことが気にならなくなった頃、それは訪れる。次の方、とレーンの入口側からあの少年が歩いてきたのだ。織音は顔を強ばらせ、友歌は今にも噛みつきそうな様子。アンチと言えど00のファン。その態度はよくない。
少年の登場に言葉を失う織音。その間に智恵理が割って入る。同期では唯一の160cm台。歳の割に高身長の彼女に、少年は「なんだよお前！」と強く言う。
すると智恵理はスカートの裾に手を添えて、
「初めまして！ 77期研究生の、園智恵理です」
「え……」
織音を守るためか、夢のためか。それとも織音に何も言えなくなるくらい自分のファンに引き込むためか。今となってはそんなのどうでもいい。
なに、この強い地響き。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年7月1日 14時
