077 ページ27
▼Nagisa
泣きながら去る織音を友歌が追いかけていった。
わたしは智恵理に尋ねる。どうしてあんなことを言ったのか。智恵理だって、あの映像を見ていたはずだ。今一番辛いのは織音。なのに、あんなこと言うなんて酷い……。
セレクションのときとは違う。織音の気持ちを想ったら、こんなこと言えない。智恵理は分からないの？ アレを見て普通でいられる、わけないのに。
「……困るの」
「えっ？」
智恵理は目をそらして俯く。意外な反応だった。織音に言ったような調子とは打って変わって誠実さえ感じる。
織音にあんなことで諦めてほしくない。そうでないと、夢が叶わない。智恵理は両手で反対の肘をそれぞれ触りながら言う。こういう仕草をするときは不安を感じていたり、緊張しているときだって前にどこかで聞いた気がする。
夢。わたしたちの………、
ハッとして思わず智恵理に聞こうとしたら、牛山先生に遮られる。「しょうがない」と半ば呆れていた。
「ちょっと呼び戻してくるから、とりあえずアンタ達は続けなさい」
そう言い、先生もレッスン室から出ていく。智恵理は何事も無かったかのように切り替えていて、鏡で振り付けを確認しながら自主練を開始。
対して鈴子と真琴、楚方はわたしと同じ顔をしていた。織音大丈夫かな。酷いよね〜、アイツ。……なんて声が聞こえる。あれ？
「Aは？」
「トイレだよ〜」
「自主練は『自主的な練習』だから数分抜けたところで誰にも迷惑かけないでしょ、と行ってしまいました」
「度胸あるっすよね。まあ生理現象だし止めにくいっすけど」
そっか……。今ではもう見慣れてしまったが、Aがキララを連れているところを初めて見たときはちょっと動揺してしまった。智恵理に続いてAまで。
研究生としてスタートした日付は一緒だったのになんだか先にいるような気がする。レッスン序盤からあの子のダンスは目を見張るものがあった。智恵理と同じくらい、名指しで注意を受ける回数は少なくともわたしより無い。歌もわたしより上手で、楽しいのが伝わってくる。
きっとそういうところが、キララの目に止まったのかな。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 31人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年7月1日 14時
