078# 本当に分からない？ ページ28
..
劇場内、とあるフロアの女子トイレ。入口から急ぐ様子で誰かが駆け込んで来た。今日の公演のリハーサルを終えた直後のたかみなである。
今にも爆発してしまいそうな焦りよう。しかし、ふとその足を止める。泣き声が聞こえたからだ。彼女が振り返った先のトイレの扉は他と違って施錠されていた。
「おーい、どうしたの？ 大丈夫？」
Uターンをしてそのドアをノックする。気遣う言葉の後に声が止んだ。鍵を開けて姿を見せたのは織音だった。
ドアが開いたので一瞬良かったと思うたかみな。だが、織音が涙を溜めていることに気づくと、静かに驚いたような顔になる。織音は顔を洗いながら、たかみなにゆっくり話しだした。
▼Orine
どうして泣いていたのか。たかみなさんに一部始終を話してから水を止める。すると、優しい橙色のハンカチを差し出された。
わたしはそれを受け取って、濡れた顔を拭かせてもらう。わたしのためにお時間を割いてくれたこと、突然こんなことを聴いてもらったこと、ハンカチを貸してくれたこと。全てを引っ括めて「ごめんなさい」と最後に伝える。
「…………。誰だって、アンチはいるよ」
「えっ。たかみなさんにもですか？」
少しの沈黙。
わたしは、たかみなさんが言うことに耳を疑った。
「そう、たかみなは00のキャプテンポジションを義務付けられているからね〜。頼りない、オーラが無いって散々だった。今だって、そう言う人はいるよ」
「どうしてそんな、酷いこと……」
「酷いことだって思ってる？」
「頼りない」？ ううん、襲名メンバーにいつも頼られているのに。今だってわたしの話を親身に聞いてくれている。
「オーラが無い」？ そんなことない。ステージではキララにあんなに照らされている。センターで踊るRIVERではカッコ良さをいつも再確認させられるのに。
わたしには憧れで、尊敬する先輩のひとり。アンチが言うようには見えない。どうしてそんなことを言うんだろう。問いの返事がすぐにできずにいると………
「あ、たかみなさんいた。織音も一緒だったんだ」
入ってきたのはレッスン室にいたはずのA。彼女はいつもと変わらない様子。わたしが逃げたことにもそんなに興味がなさそうに、一度目を合わせてもすぐそらした。
今も、わたしよりたかみなさんって感じだったし……。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 31人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：東雲れーた | 作成日時：2022年7月1日 14時
