30話＿＿‘影’ ページ40
その日は突然訪れた。
「一軍に昇格しました、黒子テツヤです。よろしくお願いします。」
青峰が練習後になにやらこそこそと自主練をしていることは誰もがなんとなく知ってはいた。知らないのはそこでぼうっとまいう棒を食べている紫原ぐらいだろう。いや、アイツもそれなりに鋭いところがあるのでわかっていたかもしれない。
青峰ほどの能力の持ち主と互角に張り合う選手など一軍以外にまずいない。なのでもし練習をしているとなれば自主練習が一番可能性が高いと踏んでいたがそれは間違いだったようだ。
ホームすら適当で、放ればゴールにボールが入っているだなんていう言葉を漏らしていたヤツの練習相手は、この影の薄くちんまりとした少年らしい。
水色の透けるような髪色に、同じく空をそのまま入れ込んだような瞳。
水彩画で色を付けたようなその少年は、あまりに淡く、儚く、ぼんやりとしていて＿＿＿＿とにかく影が薄かった。
青峰の練習相手という割には背が小さく、半そでから伸びたほそく白い腕には筋肉もあまりついていないように見える。こんなヤツが、あの青峰の練習相手かと首を捻るほどだ。あまりの平々凡々さに眉をしかめた。この様子ならマネージャーの白石さんの方が強そうだと思うほどなのに。
しかも一軍昇格と来た。こいつは魔法使いか何かかと考えてしまうのも仕方ないことである。
「よっし、テツ一緒に頑張ろうな！」
「はい」
首に腕を回された黒子は、吹き飛ばされそうだった。
やはり体力はなさそうで、青峰に腕を回されたくらいで足がおぼつかない足取りになっている。
＿＿＿＿本当に、コイツが一軍なのか？
逃げるように、誰かに答えを求めるように虹村さんの隣を見るが、今日はそこにはいつもいる黒髪のマネージャーの姿がない。
彼女が「黒子君は良い選手になるわ」なんて一言でも発せば安心できたのだが、そこにいるのは俺と同じように困惑した顔の虹村さんだった。
「……虹村さん、黒子のことなのですが」
代わりに、というように虹村さんに問えば、彼は黒の髪をぐしゃりとかきあげて「あー」と小さく唸った
「俺もよくわかんねぇんだよ。赤司が連れてきたらしいが……。
見た分には影も驚くぐらいに薄いし、背も平均レベル。運動できそうにねぇんだよな」
「……なる、ほど」
「そんな不安そうな顔すんなよ。＿＿＿＿まぁ、頼むぜ緑間。」
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