【d!】ひとつ屋根の (ページ2)

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ひとらんさんが降りて行くのを確認しながら、2つ奥の碧の扉をノックする。
返事はない。
私は何の躊躇いも無くこの扉を開ける。

碧の彼、鬱君は居ない。所謂もぬけの殻。
きっと夜の内に抜け出しているのだろうけど、私は何も言わない。
彼が女遊びに耽って居ることなんて、ずっと前から知っているから。

どうか講義の時間には間に合って行ってくれよ、と願う他ないのだ。

次に、1番奥の、翠の部屋をノックする。
中からは大きめのイビキが聞こえてくる。
この翠も、開けることに躊躇いは無く、その理由は彼がそうしろと脅してきたからであって。

『ゾムさん。起きて。』

翠の彼、ゾムさんは酷く寝坊助である。
ノックの1つや2つ、目覚ましの3つや4つで起きるような男ではない。
今みたいに、体を大きく揺すり、幾度耳元で叫んでも起きやしない。

本当はしたくないのだけれど、彼の急所、というか男の急所をゴンッと1発かかと落とし(勿論布団越し)をキメるとやっと起きてくれる。

｢いｯｯ｣

苦痛の声を上げてモゾモゾと布団の中で動き回るゾムさんに一言『起きなきゃ2発目』と吐き捨てると、彼はのそのそと布団から這い出てくるのだ。

8:10
彼らが大学へ。

午前組がドタバタと家中駆け巡る。
｢あれ、携帯どこやったっけ｣｢ちょ、Aちゃんクシ貸してくれへん?｣｢あれ、靴下違う種類だった。｣｢皆待って!俺まだ飯食うてへん!!｣

そんな彼らが揃って玄関へ向かうのをエミさんと追って、そのまま見送る。
外ではまだ彼らのザワザワとした騒音が聞こえ、私はその声を聞いてふぅ、と一息つくのだ。

｢お疲れ様です。紅茶でも入れよか?｣

若くして大学の教授になったエミさんは車で向かう為、少し彼らより出るのが遅い。
彼らが家を出、実質2人きりになると、いつもこうして甘やかしてくる。
まぁ、心地は良いのだが。

『折角だしもらいますね』

そして
8:30
エミさん出勤。

トントンさん、オスマンさん、ひとらんさん、ゾムさんが家を出たように、再び私は玄関へ向かい、エミさんを見送った。

そうすると、大体起きてくるのが黒の彼。

｢おはようA。｣

その低い声を響かせて私を後ろから抱き締めた。
先程“実質2人きり”と言ったのは、このクソセクハラ変態バリトン野郎が上で寝ているからで、いつも8:25の目覚ましで起きると、こうして私を抱擁するのだ。

『いや、離してくださいよ。』

何を言ったところで離してはくれないのだけれども。