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noside
二人と一匹が居る地下室は、死体の腐敗を防ぐためにかなり低い温度に保たれている。それでも微かに死体からは死臭が漂っているはずだ。
しかしそれは部屋を満たす溢れんばかりの花の香りに掻き消され、感じることはできなかった。
「中に入れる花は入れ過ぎても駄目だし、逆に入れなさすぎても駄目なの」
作業台に横たわるのは若い女性で、Aはその中にバスケットにから取った花を詰め込んでゆく。かつてあった内臓や骨の代わりに、赤、白、ピンクなど様々な色や形の花が死体の内部を埋め尽くしてゆく。
「花を入れ終わったら傷を縫う。そうしたら完成」
Aはそっと死体に手を触れると、ゆっくりと、そして慎重に傷を塞いでゆく。Aの指が傷に触れると、其処から微かに光の粒が舞い上がり繊細な模様を施したレースがゆっくりと傷を塞いでいった。
この縫い目が粗いとふとした衝撃で縫い目が解け、中の花が零れてしまう。だからといって縫い目をきつく詰めすぎても人形の動きがぎこちないものになってしまう。
人形の出来を左右するこの作業に多大な集中力を必要とすることは誰でも容易に理解できる。
それを重々承知しているイルミとリュビは、静かにその作業を見守っていた。
どれほどの時間が経ったのだろうか。
やがてAが死体から手を離すと、其処には傷の代わりに繊細なレースの模様を全身にまとった人形が現れた。
「はい、終わり。
まあまあよく出来たと思うよ」
Aはそう言って張り詰めていた息を吐き出すようにして深呼吸をすると、一つ伸びをした。
「すごいね」
イルミが感嘆した様に人形を眺める。出来上がったその人形は浮かび上がった縫い目を除けば本当に人間の様だった。
「要は傷を塞いでるだけだからね。治療とかそういうのには向いてないけど、人形を作るには十分だよ」
寒かったでしょ、片付けとかするからリュビと先に上に行ってて。そう言うとAはまた作業台へと向かった。
階段を登るリュビの後に続いてイルミが部屋を出る。ふと後ろを振り返ったその時、イルミの視界の端に一枚の扉が映った。
其れは薄暗い部屋の空気に完全に溶け込み、そこに扉があると言われなければ気づかずに通りすぎてしまうものだった。
Aが死体に入れずに余った花を持ち、その扉の中に入ってゆく。
一瞬だけ見えたその部屋の奥には、一つの黒い棺桶が横たわっていた。
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久坂朧@三色団子と朧は神(プロフ) - ずっと前から記憶に残る素敵な作品です……二周目読んで大号泣しながら携帯握りしめてました……。作者様ありがとうございます、この様な作品が再び読めて本当に嬉しいです。 (2020年3月20日 22時) (
レス) id: 059aca8b09 (このIDを非表示/違反報告)
ゼロ(プロフ) - 日本語も発想も舞台も物語も綺麗で美しくて、大好きな作品です。こんな素晴らしいお話を残してくださってありがとうございます。読むことができて幸せです。 (2020年1月26日 0時) (レス) id: 9668003c28 (このIDを非表示/違反報告)
満月。碧蒼(プロフ) - 柴山犬さん» 此方こそ本当に有り難う御座いました！ (2019年4月29日 8時) (レス) id: d8fdca1aee (このIDを非表示/違反報告)
柴山犬(プロフ) - もうかなり前に完結した作品なのに、コメント本当にありがとうございます…！満月。碧蒼さんにうっとりしていただけて、私としても嬉しい限りです。また思い出したときにでも読んでやって下されば、本当に本当に幸いです…！ (2019年4月27日 22時) (レス) id: f9baa8e5f4 (このIDを非表示/違反報告)
満月。碧蒼(プロフ) - 本当にもう...息が出来ないくらいに最高でした！うっとりしてしまいました... (2019年4月22日 20時) (レス) id: d8fdca1aee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：柴山犬 | 作成日時：2016年9月4日 23時
