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Aside
「お花、余ったから持ってきたよ」
扉を開けると作業部屋よりも更に濃密な冷気と花の香りが漂ってくる。
床の上に無数に投げ出された花を踏まないよう気をつけながら、棺桶の隣に置いてある椅子に座る。
棺桶の中を覗き込むと、其処にはあの日と何ら変わらない母の姿があった。
「これからお母さんが好きな冬が来るよ。今年の冬は……春に備えて新しい花を植えてみようかな」
「雪の結晶がレースの模様に似てるから雪が降る冬が好きなんだって、お母さんいつか言ってたよね」
返事は無い。
薄暗い部屋の中に私の声だけが反響する。
「私は…冬は嫌い」
「寒くて、真っ白で………。花も一緒に雪に埋もれちゃって、
それに、冬は貴方が私を独りぼっちにした季節だから」
地面に散らばった無数の花弁
純白の雪を染める私の血
握り締められた銀の鋏
手首に刻まれたレースの縫い目
死体を埋め尽くす無数の花々
フラッシュバックの様にあの日の映像が脳裏に溢れる。
世界の全てが凍りつく様な寒さの冬の日。私の全ては白に染まった。
無意識のうちに髪に手が伸びる。つまみ上げた髪の束は、やはり真っ白だった。
─────昔、私の髪はどんな色をしていたっけ？
思い出そうとしてもそれは困難で、思わずため息をつく。吐き出した息は白く凍りつき、宙に融けていった。
「………でも今はリュビがいるから、一人でも寂しくないよ」
「それに最近客以外の人が家に来るの。死体をくれる人、イルミっていうの。暗殺者なんだけどね」
「家に自分以外の人がいるって、なんだか不思議な感じ」
二人分のお茶、二人分のお菓子、二人分のティーカップ。
イルミの為に用意する、二人分。
その違和感の中に何か感じたことのない感情を味わっている自分がいて、たまに自分の感情がよくわからなくなる。
「お母さんがいなくても、私は寂しくなんてないんだよ」
不意に自分の声が震えていることに気づいた時にはもう遅くて、零れた涙は冷気に触れると一瞬で冷たくなる。
「一人だって、寂しくないんだよ」
「独りだって…」
「ねぇ、お母さん」
手を伸ばし、母の肌の縫い目を撫でる。
母の体は、死体と同じ温度だった。
「…お願いだから、返事をして………」
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久坂朧@三色団子と朧は神(プロフ) - ずっと前から記憶に残る素敵な作品です……二周目読んで大号泣しながら携帯握りしめてました……。作者様ありがとうございます、この様な作品が再び読めて本当に嬉しいです。 (2020年3月20日 22時) (
レス) id: 059aca8b09 (このIDを非表示/違反報告)
ゼロ(プロフ) - 日本語も発想も舞台も物語も綺麗で美しくて、大好きな作品です。こんな素晴らしいお話を残してくださってありがとうございます。読むことができて幸せです。 (2020年1月26日 0時) (レス) id: 9668003c28 (このIDを非表示/違反報告)
満月。碧蒼(プロフ) - 柴山犬さん» 此方こそ本当に有り難う御座いました！ (2019年4月29日 8時) (レス) id: d8fdca1aee (このIDを非表示/違反報告)
柴山犬(プロフ) - もうかなり前に完結した作品なのに、コメント本当にありがとうございます…！満月。碧蒼さんにうっとりしていただけて、私としても嬉しい限りです。また思い出したときにでも読んでやって下されば、本当に本当に幸いです…！ (2019年4月27日 22時) (レス) id: f9baa8e5f4 (このIDを非表示/違反報告)
満月。碧蒼(プロフ) - 本当にもう...息が出来ないくらいに最高でした！うっとりしてしまいました... (2019年4月22日 20時) (レス) id: d8fdca1aee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：柴山犬 | 作成日時：2016年9月4日 23時
