7話 ページ7
「嗚呼、君が僕の家に来る予定のアンドロイドか。」
そう言うと己己己己さんはにちゃりと笑った。
笑って糸目になった奥に少し冷たげな瞳が見える。
まるで私の心の中を見通しているように。
「お、54679番。来てたのか。」
己己己己さんの後ろから師匠が顔を出す。
師匠の声を聞くと己己己己さんが不服げな顔をした。
「ちょっとちょっと。女の子なんだからもうちょっと可愛い名前にしてあげましょうよ。」
余計なお世話だ。まだ私は己己己己さんのアンドロイドではないのに。
「じゃ、じゃあ己己己己さんに考えて頂ければ…。」
師匠は己己己己さんのご機嫌をとるのに必死だ。
なんてったって、数少ない常連だから。
媚びを売るだけの師匠に心底げんなりする。
「え、…。」
師匠の言葉を聞くと、己己己己さんは呆気にとられた顔をした。
そこまで意外な言動だっただろうか。
まずまず、可愛い名前を付けろといったのは己己己己さんだ。納得するべきではないか。
その瞬間、
ドカッ
己己己己さんが師匠を蹴り上げた。
「駄目じゃない、自分の弟子でしょー?」
そう言って己己己己さんは笑ったままでいる。
常連だからって、そんなことをして良いのだろうか。
己己己己さんはこちらを振り向いた。
「54679番…ねぇ。君にはもっと良い名前をあげよう。」
「いえ、結構です。」
「いやいや、遠慮しないで。」
これは遠慮なんかじゃない。
この人からもらった名前なんて名乗りたくもないからだ。
「君は、…そうだね。…」
己己己己さんは悩むような素振りを見せて、指をパチンと鳴らした。
「ナギサ。ナギサって名前はどう?」
ナギサ…ね。
「とても、良い名前だと、思います。」
その名前を気に入ろうが、気に入らまいが、この人には関係ない。
受け入れなかったら壊すだけ。
この人はそういう考え方なのだ。
マニュアル通りの返答だったのか、己己己己さんはにっこり笑った。
「よし、君を気に入った。1ヶ月後にはすぐ僕の家のアンドロイドに着いてもらおう。」
私のどのへんを気に入ったのかは分からないが、己己己己さんのアンドロイドになることが決まった。
これが不幸を招く選択かなんて、まだ誰にも分からない。
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作者名:十六夜家。 | 作成日時:2024年3月17日 20時