利市つめあわせ

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・正近は利市の祖
千二百年前に後継を作ったら現代まで己の血族が続いてて嬉しい正近。二十二代目組と時雨丸。

・合法ショタの作り方
正近と駒鳥が利市の雛たちと戯れるだけのお話。滝丸はなんとかセーフ。

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「利市という一族は今から千二百年前に発足しました。始まりは妖力を持たない一羽の烏が手違いで天狗になってしまった事ですね。でも無妖力に価値を見出したその天狗が血を繋げたわけです」

正近の話を滝丸と喜助は興味深そうに聞いていた。利市の発足というのは誰もが知ってそうで知らない話であり、利市として生まれ、そして利市の平均寿命を遥かに超えた二人も聞いたことがなかったからだ。その点、この現僧正坊の眷属である正近はその手の話に詳しかった。

おおよそ時雨丸が生まれる前から存在していたこの男は大変博識で、着物と商売関係以外には学が無い滝丸と同じく礼儀作法以外学が無い喜助は沢山のことを正近に聞いた。一時期は時雨丸の教師役をやっていた正近は教えるのも得意だった。

「正近様は僕たちの祖先様とお知り合いなのですか？」
「なぜそう思うのです？」
「特に深い理由も意味も無いのですが、とてもよくご存知そうでしたので」

すると少し離れた場所から低めの声が飛んでくる。

「いや、先祖そのものだぜ」

全員の視線がいきなり口を挟んできた時雨丸の方に向かった。滝丸と喜助はよくわからないと呆けた顔をしているし、正近に至っては「もうちょっと黙っててくださいよ」と言わんばかりの顔をしている。

「お前ら利市の家系図あるだろ。それ全部辿ってみろ、全部天辺に正近の名前がある」

……つまりは、そういうことで。

「もう言わないでくださいよ時雨丸様。私もう少し親戚の叔父様感を楽しんでいたかったのに。”曾”が十九個もつく願ってやまない可愛い孫たちとの会話に水を差さないで頂きたいですね」
「流石に無理があるぜ」

やれやれ、と時雨丸は首を振る。どうやら正近が巧妙に己も利市＿＿＿しかも、最初の利市＿＿＿であることを隠していたのが面白くて仕方なかったらしい。

「無いです。以前他の代の利市の子とも話したのですが、この子達私が最初の利市と知るといつも恐縮してしまうんですから。……さて、暴露されてしまいましたね。いかにも私がその利市、正近利市です。君たちのだぁーいぶ遠い先祖ですよ」

「え」
「待って、その、ほんとに……！？」
「本当ですよ。……そうですねぇ、君たちの代を繋いだのは永瀬(ながせ)、その次に竹本(たけもと)、銀助(ぎんすけ)、鷹居(たかい)、波月(なづき)、威丸(いまる)、朝井(あさい)、巌(いわお)、佐倉(さくら)、武蔵(むさし)、天野(あまの)、井助(いすけ)、飯島(いいじま)、五島(ごとう)、城丸(じょうまる)、石井(いしい)、旗長(はたなが)、田代(たしろ)、佐々木(ささき)、それから信吉(のぶよし)でしょうか。長兄の名前は俊広(としひろ)。家系図を見れば分かりますよ。利市の子には出生記録を義務にしていますからね、千二百年ちまちま付けました」

己の子孫の名を戸惑うことも詰まることもなくすらすら呼んだ正近はなんでも無いように笑った。つよい。

「え、正近お前分家の分家まで覚えてんのか。武蔵つったら婿入りしてそのまま生まれた利市の子だけ送った奴だろ」
「ええ。あの代の利市はとても少なくて私も断絶の危機かと焦りました。まだ時雨丸様の後継様がいらっしゃらないのに利市断絶など笑い話にもなりませんよ。……ああ、時雨丸様もきちんとご自分の子孫の名前くらいは覚えてください」
「俺まだ子も居ねぇんだが」
「失礼とは存じますがやきもきしております」
「もうちょっと妖力が溜まるまで待ってくれ」
「雲雀様ですか」
「二人は欲しい」
「その間に何度利市が代替わりするのでしょうか」
「本当にすまん」

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大広間に十数人の赤子がころころ転がっていた。その部屋の隅には時折赤子たちに集られる駒鳥がだらだらしており、部屋の真ん中で大人気を誇る正近が子供の世話を続けている。
ここは利市本家の屋敷。普段は正近が一人で住むこの屋敷には、おそらく今代利市の最後子達が祖に顔を見せていた。

十人十色を体現する子孫たちを猫可愛がりする正近を駒鳥が怪しげな目で見てくる。その視線の意味とは「お前みたいなやつにもこんな時代があったのか」である。その目を見て、ふっと思い出したように正近は語り始めた。

「利市ってずっと成長させないこともできるのですよ」

いいこいいこ。
慣れた手つきで赤子を抱えあやす正近はそういった。一時期赤子だった時雨丸のお付きであり、なお始まりの利市、すべての利市の父親たる彼は子の扱いにとても長けている。
そして千二百年の長い時を掛けて培ったその知識も他の追随を許さないものであった。時雨丸も論戦となると師である正近にはなかなか勝てない。時々勝てたときは正近がわざと勝ちを譲ったか調子が悪いときだけだ。

「私も一時期和泉丸様や旭宮様にお手伝い頂いて実験したのですが、結果としては細胞の隅々にまで永続的に妖力を行き渡らせれば永遠に子供の姿のままでいられます。文面だけだととても難しそうに見えますがかなり簡単なのですよ、これ。アヤカシが曲がりなりにも成長するのは己の体を覆っているのが己の妖力だから、体によく馴染んでしまってすぐ吸収されるからです。逆に他人の妖力だと慣れずに吸収も消費も鈍くなります」

この子もね、とくすぐると赤子はきゃいきゃい笑ってばたばた暴れた。元気な姿に正近の頬が緩む。息子も孫も曾孫もその孫もそのまた孫ももう土に還ってしまい、世話相手だった時雨丸も今や立派な若頭。正近は寂しいのだ、簡単に言えば。そしてこの子たちもそろそろ分家に渡されてしまうので、あと十年ほど次の利市を待たねばならない。

利市の赤子が分家に渡される前にほんの少しだけ本家で過ごせる時間。初代利市たる正近がごねる息子たちからぶんどった全利市が持つ時間は大体がその正近との時間に回されるのはご愛嬌だ。

「駒鳥。これは私が貴方を信頼しているから話す情報です、決して悪用しないように。特に貴方に仕えている滝丸とかには」
「分かってるって。それに滝丸は稼ぎ頭だよ、育つまでまた時間がかかるんだろう。利益を鑑みてもやるつもりは無いさ」
「それは良かった。時雨丸様付きの……ああ分かりませんか、滝丸の唯一残った兄弟の喜助から苦情が来ていまして、なんでも『滝丸の家出先が僕の部屋になりそうで怖い』とか」

駒鳥は大袈裟に肩を竦めさせた。確かに最近は駒鳥が溺愛している滝丸が他の店から逆恨みを喰らい、おまけに妖術も喰らうという事件が起きて過保護気味になっていた節がある。
眠くなってきたのか半目になっている子の背中を優しく叩いて寝かしつける正近は駒鳥の考えてることがだいたい分かったのか深い溜息を吐いた。

すると何かあったのかと他人の感情に過敏な赤子たちが寄ってくるのに「ああごめんなさい」と慌てて対応する。いつの間にか正近の腕の中の子が眠っていたのでその子を座布団の上に寝かすとまた別の子を抱えなおした。

「現代で言うところの保父みたいだね、正近」
「私は祖父です」
「いくつ"曽"が付くのさ」
「この子たちは滝丸や喜助と同じ分家の子たちですから三十四代目……つまり三十二個ですね」
「こっわ」

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・正近
千二百歳のおじいちゃん。事実上おじいちゃん。みんなに優しい。和泉丸と自分の一族ラブ。駒鳥とは良き友人。

・駒鳥
元々浅くない縁だったけど滝丸のことで一層仲良くなった。滝丸は長生き利市として正近のお気に入りでもあるため交友は深い。

・利市のちびちゃん
みんな小さい頃に遊んでくれてたお兄さんくらいの気持ちで正近を覚えている。雰囲気だけ感覚で覚えてるのでそれが一生正近だと気づかない場合のほうが多い。

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