旭宮の大暴走【滝丸主従のおまけ付き】

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今(真が時雨丸と会ったころ)の鞍馬山に和泉丸と旭宮は居ません。
なぜかと言うと、「時雨丸も立派になったし時代も変わったしちょっと全国回ってくる」と夫婦旅行に行ってしまったから。
で、その旅行に行ってた夫婦が帰ってきた時の話。

それから性別転換しちゃった滝丸の話。ここで初登場な滝丸の主人。

・これは夢ではありません。
・主従あります。ロリショタコンが居ます。同性愛はありません。添える程度ですが滝丸が女になってます。

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「ひろ」
「なんだ」
「母上と父上が帰ってきた」
「は？」
「ちょっと来い。紅葉と真も一緒にな」
「おい待て冗談も休み休み言えよ」
「冗談ならどれほどよかったか」

早朝の時雨丸さん単独突撃。困惑する俺たち。話を聞いた千尋さんに一番いい着物を着せられた俺と紅葉。
わけがわからん。

「あらあら、時雨丸に雲雀、それに千尋も居るのね。可愛いこと、長い間会わないうちに随分と大きくなったのね、立派な大人になったわ」

なんというか、お方様はこの世の美というものを結晶化したみたいな人だった。千尋さんもなんか直視できないのか目を背けてるし、紅葉に至っては若干引いてるし。
だけど時雨丸さんと雲雀さんはずっと笑顔だった。まあ当然かもしれない。引くくらい美人でも、なんとも言えない強者のオーラを放ってても、二人にとっては長く会えなかった母親だ。

「母上、お久しぶりです」
「ご無沙汰しております旭宮様」
「あらあら、上手で素敵なご挨拶ね。かか様は嬉しいわ。でも昔みたいにもうちょっと砕けても構わないのよ」

でも見た目に反して割とフレンドリーなようで、いつもの口調からはなかなか想像できない敬語で話しだした二人を喜ばしそうな目でみつめる。
だが、その表情に少々影が落ちた。

「そうね……かか様は昔の貴方達のほうが可愛くて好きよ。だからちょっと戻してしまいましょう。可愛いほうが素敵だわ」

……ん？

「勿論今の貴方達も可愛くて格好良くて素敵よ。でもね、時雨丸と千尋はすっかり男の人になってしまったし、雲雀は胸も大きくなって子供ではなくなってしまったわ。……もう、雲雀ったら本当に椿のように美しくなったのね。かか様は可憐だった娘が妖艶な女性になってとても嬉しいわ。さあ、痛くないから安心なさいな」

よく通る声が途切れたと思った瞬間、俺達の感覚を支配したのは見たこともないような大量の妖力の奔流だった。ぐるぐる渦巻いた妖力が一点に集まって、一瞬目の前が真っ白になる。千尋さんは紅葉を庇って、時雨丸さんと雲雀さんたちは警戒態勢を取っている。俺も咄嗟に薄く瘴気の膜を張った。だがそんな緊迫した空気をぶち壊すように「あらあら、うふふ」と笑うお方様。

しばらくして、妖力が形作った風が収まったかと思うと俺の目線上にはもはや誰も居なかった。いや、違う。居ることには居た。

「だからいったろうにしぐのばか！あさひのみやさまはぜったいにこうなるからおれはおあいしたくないと！！」
「おまえもみちづれだばかひろ！」
「しぐもひろもおちつけー！あさひのみやさまのごぜんだぞ！」

……だけど、到底常識内じゃ考えられないような大きさで。

「……何が起きたの？あ、待って千尋、落ちる」

千歳組が三人とも小天狗サイズに縮んでいた。千尋さんは紅葉の腕の中でジタバタ騒いでて、多分紅葉をかばってたけど小さくなったせいで自重を支えきれず崩れ落ちたのだろう、そこを紅葉がキャッチした感じか。時雨丸さんと雲雀さんは床の方で着物に埋まりながら色々叫んでる。
紅葉は多大に困惑しながら腕の中でぎゃいぎゃい舌足らずに騒ぐ千尋さんと、床で同じように騒ぐ時雨丸さんと雲雀さんを見てＳＡＮ値ピンチ状態だった。その後俺の姿を見て目だけで「瘴気引っ込めろ」と威圧。ちなみに俺はお方様のとある資質を察して菩薩の顔。

そんな一瞬にしてカオスとなった大広間にそのカオスを作った人の悲鳴が響き渡る。そしてそのお方様の視線の先には紅葉。

「……あら、あらあらまあまあ！なんて可愛い女の子！！千尋にそっくりの妖力を纏っているのね、千尋の隠し子かしら！」
「その、ははうえ」
「いやだわ、こんなに可愛い子が居るのに千尋ったら麻呂に連絡の一つ寄越さなくて。もう、赤子の頃からお世話をしたかったくらいなのに、どうしてここまで大きくなるまで教えてくれなかったの。かか様は悲しいわ、あんなに可愛い子について隠し事は無しよと言ったのに」
「あの」
「あらあら貴女、素敵な肉の付き方をしているのね！鞍馬剣術を行使するのにもっとも効率的な筋肉の付き方よ。こんな小さな体で本当に頑張ったのね。凄いわ。努力でも才能でも、投げ捨てずここまでできたことは何より素晴らしいことよ。……もう本当にいやだわ、どうして手紙の一つくれなかったの、すぐに駆けつけたのに」

今の発言で確信が持てた。このお方様ロリショタコンだ。ことごとく紅葉や時雨丸さんたちの言葉を遮り萌を語る姿は現世のオタクに通じるものがある。ちなみに紅葉は若干引きから遺憾なきランクアップを経てドン引きしていた。

「……しょうかいしよう。おれのははうえ、あさひのみやさまだ」
「いやだわ時雨丸。母上ではなくてかか様とお呼び。せっかくそこまで可愛くなったのよ、麻呂に水干を纏って毎日花を贈ってくれていた頃の時雨丸がかか様は一番好きだわ」

あ、時雨丸さんにもそんな時期があったのか。この大きさの時雨丸さんが花を差し出す姿を想像して俺は静かにお方様に同感した。

「おれはもうわかがしらですよ、ははうえ」
「あらまた母上と！時雨丸、かか様は貴方の成長がとても喜ばしいけれどこればかりは譲れないわ。麻呂はどこに行こうが第一に貴方の母親なのよ。ほら、かか様とお呼びなさいな」
「……ちひろもははうえのことをそのままおなまえでおよびしています」
「ばっ……しぐ！」
「まあまあ！なんてこと。そういえば先程旭宮と呼んでいたわね、失念していたわ。昔は旭様と呼んでくれていたのにこれが反抗期と言うものかしら、時雨丸にも雲雀にも千尋にでさえ兆候がなかったのだからこれが初体験ね！」

お方様はなぜかとても嬉しそうだ。確かにこの三人の反抗期……うん、なんか想像できない。ヤンキーしか出てこない。だがその嬉しそうだったお方様の顔が、ぎゃいぎゃい言い合っている時雨丸さんと千尋さん、悟りの顔をした雲雀さんを見てつまらなそうな顔になる。
やめたげてお方様。流し目の流れ弾くらった紅葉が死にかけてるから。そしてここまでずっと空気の俺氏。

「もう、みんなったら連れないのね。千尋も時雨丸も昔は十二単がとても似合っていたし、雲雀だって鬼灯丸の袈裟を着て走り回っていたのに。かか様は寂しいわ」

お方様のマシンガントークは終わらない。千歳組は全員が全員顔を真っ赤にしていた。おそらく隠していたはずの過去をバラされて羞恥が限界まで来ているんだろう。特にプライドエベレストの千尋さんは女装時代のことをカミングアウトされたからか頭からだぼだぼの羽織に埋もれている。あ、かわいそ。

「でも本当にいやだわ、千年ずっと願ってやまなかった貴方達の反抗期！旦那様が聞いたらきっと喜ぶわね、だって可愛い可愛い子供たちの反抗期よ！」
「このっ……かか様！」

お方様の大暴走に居た堪れなくなったのか時雨丸さんはあっさり降参した。俺としてはもうちょっと完璧超人たる時雨丸さんが翻弄されてるのを見たかったので惜しさがある。

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・おまけ・
「『うえくさ』に商売で負けて恨み持ってた他店のアヤカシに変な術かけられて性別転換しちゃって割と精神的に疲弊して休暇取って家に閉じこもっていた滝丸が駒鳥に取り敢えず甘やかされる話」。時系列はまだ和泉丸夫婦が旅行に出ていなかった頃。おまけに正近。

「た、き、ま、る？」
「ひゃい……」

威圧感やばい、と滝丸はただ素直に思った。処世術が上手く人を観察するのが得意な滝丸は普段は温厚な自分の主人は怒ると本当に怖いと言うことを知っていた。優しい人ほど怒ると怖い。

「どうして主に隠していたのかな？」
「い、いえその、あのですね、隠してたわけでは」

言い訳のような反論は駒鳥(こまどり)の射抜くような視線に掻き消される。滝丸は初めて自分に向けられたその視線に思わず後ずさった。

「ではなぜ休暇申請を私ではなく総元締めに渡したの？お前の主は一体誰だい？」
「ひぇっ……だ、旦那様です」
「そうだよねぇ、お前は『うえくさ』ではなく私に雇われているのだよねぇ。では休暇申請は誰に渡すのが正しい？」
「旦那様、でし、た……。その、ごめん、なさい」
「うんうん、良くわかってるじゃないか」

褒められてるはずなのにそんな気がしない。逆に追い詰められるような軽薄な褒め言葉に滝丸は思わず普段なら必ず聞かないことを聞いてしまった。

「あの、だ、旦那様……えっと、俺は」
「うん？何かないのかって？」
「は、い」
「もちろんこれは仕置案件だよね」
「ッそんな！」

にっこり笑って頷く主人がとても恐ろしいものに見えた。逆に謝っただけで許してもらえると驕っていた自分がとても恥ずかしく思えた。

「何で？嘘を吐いて、緊急の際の隠し事は無しという約束を反故にして、それでもって無断欠勤だよ」
「だって俺は、あの、旦那様に迷惑をおかけするのが嫌でっ」
「でもそれなら、この状況自体が迷惑に当てはまるとは思わないのかい？お前のために私は店を離れているわけだけれど」
「それ、は、でも、だって！」

口から飛び出すのは幼子が使う言い訳ばかり。足音を立てずに近づいてくる駒鳥に喉からひゅっと呼吸の止まる音が鳴った。

「まあ決定事項だから諦めるんだよ。滝丸が一番好きなことやってあげる」
「ぴゃいぃっ……！！」
「……どういう悲鳴なんだい、それ」

「＿＿＿っていうことがあってね。まったく、何であんなに利市の子は可愛いんだい。以前ちょっと店で面倒見てた子も凄く可愛かったなぁ」
「……駒鳥、つかぬことを聞きます。貴方私の子孫に何やってるんです」

正近の顔は怪訝の色を含んでいたがその顔はすぐ呆れ顔に変わる。

「素直になる催眠術。あの子は出自が出自だからね、心にいつも鎧を纏わせてるのさ。でも素直になると剥がれて思う存分甘えだすんだ。気になるなら滝丸の兄弟に喜助って居ただろ、使ってみるといい。可愛いぞ～？あの子自らくっついてくるんだから。でも恥ずかしいからって解けたらいつも拗ねるんだよ、可愛いけど」
「……相変わらず素敵な趣味で」
「褒めてるのか貶してるのかわからないね」

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・滝丸
既に《うえくさ》の若旦那。観察と処世術がとても上手。旦那様大好き。結構接客とかで疲れてる時に利市であることを貶され、おまけに女の姿にされて不安と恐怖で潰されそうになっていた。強がり。
催眠術にかかると甘えん坊の子供時代に戻る。

・駒鳥
初登場の服飾屋《うえくさ》の店主。若旦那の滝丸の主人。滝丸が可愛くて仕方がない。滝丸に手を出したやつ？勿論潰したよ？
結構店の方でなら利市の子を雇ってるけど自分で雇ったのは滝丸が初めて。

・正近
うちの子孫貶した奴がいたと聞いてこの後激おこプンプン丸。

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