言霊における色変え

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「やってごらん」
「マジで」
「まじって、何？」
「ごめん。本気？」
「嘘だと思うの？」
「すんません」
「誠意」
「申し訳ございませんでした」
「よろしい」

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＿＿＿＿「最低でも五枚は色を変えてごらん。それなら言霊については文句無いから」

……とは、言われたものの。

師である紅葉に渡された短冊用らしき白い紙五枚と黒い紙十枚。言霊で俺の妖力と神力を操って、この紙の色を別の色に染めればクリアらしい。鞍馬の山や他の知り合いに助言を貰ってもいいらしいけど、蒼さんとか光さんとかこういうの苦手っぽいし。

「にしても、言霊かぁ……」

言霊系は……なんというか、ほんっっっとにマジで苦手なんだ。特に無機物に影響を及ぼすのとか死にかけるのがいつもだし。庭石を割れと言われた時はこいつマジかよと思ったし。
五枚、五枚って一日で終わるか……？

「何か考えごと？」
「うおぁああっ！！？」

急に忍者みたいな登場の仕方してきたのはさっきも名前を上げた蒼さんだ。蒼さんは俺の手元の紙を見ると全部察したようで俺の隣に腰掛ける。

「言霊でしょ。真くん苦手だったよねこういうの」
「苦手。色を思い浮かべて名前言ったりしてもぜんっぜん染まらないし」
「ふーん……じゃあ、和歌がいいかも」
「和歌？」

和歌って……百人一首とかそういうのだろ？
紅葉の座学で百人一首は何回も実践したし、内容も大体覚えさせられたけど……。

「和歌は平安の歌のものが多いよね。時間が経てば経つほど言葉には力が宿るんだよ」
「へー！」
「だから、千年の力を宿した言葉の方が力は込めやすいんだ」

確かに。このふわふわで有名な蒼さんが言うくらいに、年月というのはここの世界ではかなり重要視されてるみたいだ。
蒼さんはネックレスを指で弄り、何度か鈴の音を奏でると背伸びをして唸った。

「じゃあ僕はこれで。難しいことは……紅葉ちゃんに訊けばいいよ！」

出題したのが紅葉なんですけど。
そう言う前に、蒼さんは猫の俊敏さでどこかに言ってしまった。……やっぱすっげぇ自由な人。

……ん。待てよ。紅葉といえば……。

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「ふん、色染めか」
「雲雀さんなら詳しいと思って」
「ま、強(あなが)ち外れちゃいないな」

平安の女性の基本教養は和歌。なら、平安生まれで教養が高く、紅葉に色々教え込んだ雲雀さんなら得意だろうと踏んで来た。
雲雀さんは本棚に行儀よく収まっていた本を風で浮かせて手元に持ってくると、その本のページを一枚を容赦なく破った。

「これだな。椿が描いてあるだろう」
「はい」

示した紙には白黒なのに一目で椿と分かるような絵が描いてあった。誰のだろ、めっちゃ上手い。

「そうだな……今はしぐが稽古中だし。

___『あしひきの山つばき咲く八峯を越え鹿待つ君のいはひ妻かも』」

……ふわり。
部屋の中で風が踊った。紙の上で色が舞った。雲雀さんの霊力が椿色に、蜂蜜色に、そして深緑色に染まって紙に命を吹き込んでいく。
しばらくその光景に見惚れているうちに、塗り絵でもしたかのように紙は染まっていた。

「こんなものか。これは万葉集の和歌でな、夫を待つ妻の歌さ。それと、歌の中になにか特徴があるのが分かるか？」
「……あっ、山椿！」
「正解。縁のあるものを歌に乗せるとさらにやり易くなるだろうよ」

雲雀さんの母の名前は椿。そして彼女自身も作り名に"椿"の字を頂いている。おまけに髪飾りも色打掛も椿。そりゃやり易いはずだ。

「紅葉は桜の歌やら紅葉の歌やら秋の歌でやるのが得意だったな。昔、線だけの花札一式買って何するんだと思えば歌で色を付けていたことがある」

……あの所々変な色になってる花札ってそんな経緯があったのかよ。

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おまけ。

「……『奥山にもみじ踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は悲しき』」
「ふむ。……『きみにより思ひならひぬ世の中の人はこれをや恋といふらむ』」
「……っ千尋、それ(恋歌)はずるい」
「はっはっは」
「っ……！『わがやどの花ふみしだくとりうたむ野はなければやここにしもくる』！！」
「……おお」
「……ごめんなさい。ま(•)た(•)着流しを染めちゃった」
「構わん、また後で染め直せばいい。それにこれは紅葉の思う俺の色であろう？」
「……うん」

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多分続く。

・蒼
彼自身あんまり霊力操作は得意じゃない。技より量で勝負するゴリラタイプ。

・雲雀
霊力操作全般できる。実は歌を詠まなくても色染めはできたけど、見本として見せるならあれだと思って歌を詠んだ。

・紅葉
努力タイプ。感情制御が苦手だから時折歌の詠み合いしてると普通にあたりの色を丸ごと変える。

・千尋
天才鬼才秀才なので何でもできちゃう。紅葉が着物を竜胆色に染めた時(おまけ話)は愛おしすぎて三日くらい閨に閉じ込める気満々だった。

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