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小説作るのめんどくさかったのでここ等でネタ供養します。
気が向いたらちょこまか付け足しますので。


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俺は人間だった。そう、人間"だった"。
修学旅行の夜、規則を派手に破ってクラスの馬鹿野郎共と近くの山に肝試しに来た挙句迷子になるなんていう馬鹿野郎でもある。

そんな大馬鹿野郎は実は所謂ところ"憑かれやすい"体質だったらしい。知らんけど。
俺は無事、悪霊中の悪霊であり歩く害悪とまで言われる「堕ち神」に取り憑かれてしまった。最初は「まさかそんなファンタジーあり得ないっしょ」とか余裕かましてた俺は自分から黒いモヤモヤが放出されるのを見て考えを百八十度改めた。堕ち神なんぞに取り憑かれたら普通死ぬらしいが、俺の場合はかくかくしかじか奇跡的に助かった為、軽く人間卒業したものの死なずには済んだ。


《君さぁ〜、肝試しにこんな霊山とか本当にお馬鹿さんだよね〜。しかも丑三つ時でしょ〜?戦国時代の落ち武者だとか、動物の悪霊だとか、それこそ君に取り憑いたくらいのがたぁくさんゴロゴロしてるのに〜》

とは、俺を助けた奴の部下らしい人の言である。彼はそろそろ還暦3回目を迎えるらしい。見た目は俺より年下なのに、中身は思いっきり化け物である。

文机に肘をついて、深いため息を吐き出した時だった。鶴の絵が描かれた襖が音もなく開かれる。

「……(まこと)、貴方何を余所見しているの……?」
「あ、桜花(おうか)
「課題は終わったの?ただでさえ非力なのに、そんなに無知ではすぐ頭から食われて死ぬよ?それとも……一思いに私が食べようか?」

細い手足、寒色系の着物に鈴がついた同色の組紐でクソ長い髪を纏めた、小学校高学年くらいの子供がお茶を持って現れた。課題と言う名の紙の山を指差して首を傾げている。
さらっと怖いこと言ったのは俺を助けた奴、もとい桜花。ちなみに真っていうのは俺の偽名だ。他の妖に名前を知られると大変な事になるらしく(真名縛りがうーだら)、桜花の付けたこの偽名で今までを過ごしてきている。ちなみに桜花も偽名らしい。

ゆっくり喋るこいつについて、俺はまだ何も知らない。ただ桜花と言う偽名を持っているって事と、還暦4回目過ぎてるって事と、とある大妖怪の……なんだっけ、まあ部下とかそういうやつだって事だけ。その大妖怪にもまだ会わせてもらってないし。


桜花に救われた後、俺が連れてこられたのは大きな純和風のお屋敷だった。
俺はそこの道場についている離れってところに住まわせてもらってる。そこで桜花に妖の知識と他の妖に対抗できるだけの力を身につけろって言われて今日がある。

今まで部下枠の人にしか会ったことがないけど、桜花は「彼の許可が下りれば外に連れてく」と言った。彼ってのはきっと大妖怪なんだろうけど、真偽は不明だ。


「……あ。**が呼んでる。真、私これから用があるから。真面目にやってね」

桜花の言葉に雑音が混じる。この雑音が一体なんなのかは知らないけど、桜花は教えてくれる気配がないので聞くこともしない。
桜花は持っていたお茶を俺が向かって座っている文机の上に置いてすぐどっかに行ってしまった。あんだけ急いでるってことはきっと大妖怪がうるさく呼んでるかなんかしてるんだろう。俺には聞こえないけど。

まあ、桜花に釘を刺されたし、めんどいけど桜花の渡してきた課題を終わらせるか、と一口微妙に薄い茶を啜って鉛筆を再度握りしめた。



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「構え」
「何度も呼んでおいて……まさか用件はそれだけなの?」
「そうだがなんだ。構え」

肘置きに体を預けて、片手には煙管で側には酒と寛ぎまくっている美青年。何より目立つのが、肩に掛かっている黒い羽織を押し上げてゆらゆら揺れている九つの銀色の尻尾。
九尾の狐、とも呼ばれる彼はこの山城でも名を馳せる大妖怪。彼が、彼こそが私の主人であり、感謝してもしきれないような命の恩人。そして、便宜上夫でもある。

その昔は遊女たちの間で有名になるくらい豪遊していたらしいけど、約二百年以上前に私を拾ってからは完全なる隠居爺と化している。私自身も彼が私を置いて何処かに出かけるのは一度も見たことがないし、彼を想って屋敷にまでやってくる女性はみーんな丁重にお帰り願っているから。

まあ、でも。なんでそんな(ひと)が、ただの人間の小娘を自分の同族に変えた後眷属にして、ご丁寧に成長も止めてから鳥籠の中で溺愛しているのかは正直理解に苦しむけれど。その小娘と言うのが私の事だから余計分からない。

「構えと言ったって何をすればいいの……」
「ほれ、近うよれ」
「……私、抱き枕じゃないのだけれど」
「お前は温いからなあ」

陽に当てて干したからふかふかの布団に、彼の使う香の香りが染み付いた枕。抱き寄せる白い肌の腕。彼の長い銀髪が頰に当たって微妙にくすぐったい。その全てに安心して微睡みかけるが、この爺の事だ、構えなんて口実で本当は何か別のことを考えているはず。

「……ねえ、逃げられないようにしてまで、何がしたいの」
「おや気づいたか。恐ろしや、聡い子や」
「……誤魔化さないで」
「はっはっは。ではなあ、愛い子よ。その可愛い耳でよぉくお聞き。…………俺はあの小僧が目障りだ」

彼の纏っていた空気が一気に冷徹なものになる。緊張感に心臓が止まりそうで、でも、彼は必ず私には手をあげないと分かっているから、まだ僅かに余裕があって。
あの小僧とは十中八九一週間前に拾って来た、お憑かれの人間……真のことだろう。ああ、なるほど。彼は私が特に彼に構わず、真にばかり思考を向けているからそれが気に食わなかったのかもしれない。

「……千尋(ちひろ)
「ああ、やっと名を呼んでくれたな」
「……私は、人間のとの接し方が分からない」

ちひろ。千尋。その名前を呼べば、彼はすぐ声色だけ上機嫌になる。だけど彼が私の真名___本当の名前を呼ばないということは、つまりまだ少しご立腹ということ。
だから、彼の言葉には答えずに、静かに自分の主張を続けていく。

「私は……妖の愛し方を受けて育ったから……それが、私の愛し方」

隠して、逃さないで、羽を捥いで、永遠に、永久に、ずっと籠の中に閉じ込める。それが妖の愛し方。私の愛し方。千尋の愛し方。
村に虐待されて、そして生贄として山に捨てられて、ボロボロの見窄らしい私を助けてくれた、やさしい妖の愛し方。

「でも彼は人間だから、それは幸せだとは思わないんじゃないかな……。人間には人間の愛し方があるんだと思う。……だから、私はそれを知りたい」
「それはまだ小僧を構うということか?」
「う、ん。……ッ!?」

急に抱き締める腕の強さが強くなって体が圧迫される。苦しいという意味合いを込めて千尋の背中を叩くと申し訳程度に緩まったけど、それでもまだ少し苦しい。
もしかしたら、千尋は嫉妬しているのかもしれない。正直千尋に拾われた直後の私は彼に塩対応を繰り返して繰り返して、三年かけられてようやく懐いた。だから自分の時と真の時を比べて、嫉妬しちゃっているのかもしれない。

「……千尋」
「なんだ」
「それでも私は千尋を一番……その、愛してるから、もしも千尋が真を殺せと言ったなら肉片が残らないくらい滅多斬りにするし、追い出せと言ったなら、山からも追い出すよ」
「……そうか」

最後の一言がちょっと明るい声色だったから、恐らく機嫌は元に戻ったはず。まあ、もし真が千尋の結界内で暴れ出すのだとしたら、強ち滅多斬りも山から追い出すのも、嘘じゃないけれど。

紅葉(もみじ)や、お前は本に愛いなぁ」
「……そう」

今日初めて、千尋は私の名前を呼んでくれた。
木が紅葉している季節だったから紅葉(もみじ)、その紅葉していた木が桜だったから桜花(おうか)

……世界で何より、私はこの名が大好きだ。



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作者名:雪寝 | 作成日時:2018年9月26日 6時

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