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小|中|大|さつまいも
その花言葉、「幸運」「乙女の純情」
*
この作品は終末戦記の派生作品です。
口調や性格がおかしい、といったご意見や感想、次回作への要望等は随時受付中。
次はクリスマスネタ書きたいなぁ
その花言葉、「幸運」「乙女の純情」
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この作品は終末戦記の派生作品です。
口調や性格がおかしい、といったご意見や感想、次回作への要望等は随時受付中。
次はクリスマスネタ書きたいなぁ
全てが天使によって破壊されたと思えたこの星でもまだ植物は残っていたようで、寒風と共に草花が秋の訪れを告げてくる。こんな日に焚き火をするというのは中々雰囲気があるものだ。日も暮れ始め、気温が下がってきたこの時間帯となれば尚更だ。
「ミノル、寒かったり暑かったりはしませんか?」
「ちょうど良いくらいだよ、お父さん。日が落ちきる頃にはこっちも食べ頃になるかな?」
焚き火の中からはほんのりと良い香りがしてくる。何故僕らがこんなことをしているかというと、それはほんの1時間ほど前のこと。
「……焼き芋食べたい」
日に日に寒さが増してくる中、なんとなく秋の味覚を味わいたい気分になっていた。天使の襲撃に怯え、生きている他の人間と出会うこともほとんど無いこの時代、娯楽に飢えたこの体が食欲だけでも満たしたいと思うのは当然のことだろう。僕のこぼした欲望に、僕の契約している悪魔であるディアウスさんが反応する。
「焼き芋、というと焼いた芋のことですね。芋と一括りに言ってもその種類はごまんとあるようですが、何芋を焼きましょう?」
「普通は焼き芋といえばサツマイモだよ。サツマイモを焼いた石に埋めてじっくり火を通すと甘くてほくほくで……これぞ秋の味覚!って味になるんだ」
ディアウスさんは僕の父になりたがっているのだが、地球のこと、特に現代の文化についてはまだ知らないことも多いらしく僕がものを教える立場になることも多い。こうして過ごしていると、自分が父であった頃を思い出す。
「焼きじゃがも良いなぁ……バターたっぷり乗っけて……里芋にお塩振って日本酒と頂くのもオツだし……」
ものを食べる必要は無い体だというのに、おいしいものを想像すると何故か空腹感がわいてくる。
「ね、お父さん。一緒に焼き芋食べようよ。おいもなら畑とか貯蔵庫とかに食べられるのが残ってるはずだよ」
「ミノルが望むのならば、父としてそれを叶えましょう。まずはおいもを集めないといけませんね」
「じゃあ、お父さんはさつまいもを探してきてね。僕が火をおこして石焼き芋の準備をしておくから」
「もし何かあったら私を呼ぶんですよ。ミノルの声が聞こえたら、どこへいようと駆けつけますからね」
ディアウスさんはそう言って僕をそっと地面に下ろすと、芋を求めて飛び立った。何個か適当に見繕ってくれるだろうと思っていたのだが、どうも見積もりが甘かったようで。何か僕にお願いされたら全力で取り組まねば気が済まない性分のディアウスさんは、目を離した隙にそれはもう大量に芋を持ってきてくれていたのだった。
そんなこんなで、二人で芋入りの焚き火を前にぬくぬくしていると、遠くから誰かの話し声が聞こえてきた。
「なんか肌寒い……私の幸福が寒さのせいで減ってる……ロッソ、なんとかして」
「なんとかして、と申されましても天候ばかりはワタクシの力をもってしてもどうにも出来ないのですが。なんとかできるならとうになんとかしていますとも」
ぶつくさ文句をたれているのはおそらく水鳥リツ、その横に居る長身の陰は……おそらく彼女と契約している悪魔だろう。
「あれはもしかして……誰か居る?あったかいものでも恵んで貰わないと……このままだとつらい……」
「リツ様、あまり不用意に近づくことはお勧めできませんが……リツ様が望むのでしたら止める道理もありませんね」
向こうから二人が駆けてくるのが見えたので、こちらも手を振って反応を返してやる。黄昏時の明るさでははっきりと分からなかったが、近づいてきた二人はやはりリツとその契約者だった。
「こんばんは、二人とも。ちょうど良いところに来てくれたね」
「福家さんだったんだ……こんばんは」
リツはぺこりとお辞儀をすると、さも当然かのように僕の横に座ってきた。
「……水鳥さん?」
「くっつくとあったかいから……」
相変わらずこの子の考えることはよく分からない。さてどうしたものか、と考えていると彼女の契約悪魔――ロッソさんが体を前に折り曲げずずいとこちらに目線を合わせてきた。ディアウスさんといい、長身悪魔の間でこういう動きが流行っているのだろうか……
「ミノル様、こちらは一体何をなさっているのでしょう?万が一リツ様に危害が及ぶことがあれば……」
「顔が近くないですかね……えっと、僕は今おいしいものを作ろうとしていて……水鳥さんにも食べて貰いたいなと思っただけです、はい」
「ふむ、ならば良いでしょう。リツ様はいささか悪食なきらいがありますから、比較的常識的そうなアナタの用意するものでしたら……リツ様が食べようとするものよりはマシでしょう」
ロッソさんは僕の後ろをチラリと見て、何か「うちの子を脅すつもりじゃあないでしょうね」とでも言いたげなのであろうディアウスさんの顔でも見たような感じで引き下がっていった。
「おいしいもの……これ、食べるんですか?」
そう言ってリツが拾い上げたのは、足下に落ちていた芋のツル。僕の背後にはかまくらが作れそうなほど積み上がった芋のツルがあるが……
「福家さんも私と似たようなことをするんですね」
「変に納得しないでくれるかな……」
彼女がまじまじと眺めていた芋のツルを取り上げ、後ろの山に放り投げた。このまま彼女に持たせていてはいつ口に入れてしまうか分からない。
「食べられなくはないらしいけど、多分おいしくないよ。食べるのはあっち」
僕はツルの山の隣にある芋の山を指さした。これだけあれば満足してくれるだろうという目論見でディアウスさんが近隣から根こそぎ奪ってきたのではというほどの、考え得るあらゆる種類のお芋の山。
「おいもパーティーでもやるつもりなんですか?……楽しそうですね、おいもパーティー」
「……パーティにするつもりは無かったんだけどね……」
どうしてこんな事態になったのか、改めてリツに解説する。
「……なるほど……つまりはやきいもパーティーですか」
パーティー、という単語にリツの中の何かが反応したらしく、彼女は鞄をごそごそ探っている。中から出てきたのは、星形のパーティーサングラス。
「じゃじゃーん……ようやくこれの出番がきた……」
「妙に用意が良い子だこと……って、あっ……ちょっと!メガネ返して!」
「これが終わったら返しますから……どうですかね。ダブルメガネ」
……何かリツが渾身のギャグを披露しているような気がするが、薄暗さと視力の低さが相まって何も分からない。おそらくはあのサングラスと僕のメガネを同時に掛けているのだろうが。さて困った、と悩む間もなく誰かがひょいと僕のメガネを返してくれた。僕の顔を片手でつかめそうなくらい大きな手……ディアウスさんだ。
「あ……ありがとう……お父さん」
「大丈夫でしたか?……リツ、いじわるはいけませんよ」
普段よりもちょっと暖かい手でぽんぽんと頭を撫でられるのはとっても気持ちいい。それにしても、お父さんが誰かを叱るなんて珍しい。いや、普段は良い子だと言われるように気を遣っているし、他の人と接する機会が無いからそういう姿を見られないだけなのだろう。
「お父さん、そろそろおいも、焼けてると思うよ」
「では、一つ食べてみましょうか」
ディアウスさんは素手で火の中の石をひっくり返し、中からホイルに包まれた芋を取りだしてくれた。ふうふうしながら手の上で弾ませ、ほどよく冷めたところで半分に割る。すると中からサツマイモの甘い香りが吹き上がり、ほっくりとした黄色い中身が顔を覗かせた。
「……おいしそう……」
リツがじっと芋の方を見つめている。おいしいものを食べさせれば彼女も顔をほころばせたりするだろうか。
「お父さん、水鳥さんにもお芋、分けてあげてくれる?」
「ええ、良いですよ。はい、あーん」
「……子ども扱いしないでくれますか」
リツは口元に差し出された焼き芋に口をつけず、そのまま奪い取った。ディアウスさんに食べさせてもらうのは気に食わないらしく、自分で食べようとしている。
「いただきま……熱っ」
「焼きたてだから気をつけて食べないと。じゃあ、僕も」
ディアウスさんが食べさせてくれた熱々のさつまいもは舌が火傷しそうになるが、その刺激を優しい甘さと食感が上書きしていく。炭水化物を体が求めているのだと痛烈に感じぱくぱくと食べ進め、あっという間に皮だけになっていた。
リツの方は、皮ごと食べていたようだが。
「おいしいですか?満足するまで、どんどん食べてくださいね」
「あと10個くらいください」
この機会に食い溜めしておくんだ、とばかりに芋を口に運ぶリツの姿は僕の可愛い子どもたちのことを連想させ和やかな気分にさせる。僕のリツも大好きなシュークリームを小さな口でもくもく懸命に頬張っていた。年をとって大食いできなくなると若い子がご飯を目一杯食べる姿に喜びを感じるようになるとは言うけれど、僕はもうそんな歳になってしまったのかな。
「……どうしたんですか、福家さん。おいも冷めちゃいますよ。それとも私が食べましょうか?」
「僕はもう年だから君みたいに勢いよく食べれなくてさ。たくさん焼いてあげるから好きなだけ食べなよ。あと、あんまり慌てて食べると喉に詰まりやすいから気をつけるんだよ」
「お父さんとかみたいなこと言わないでくださいよ……あ、福家さんってお父さんだった……んでしたっけ」
「お父さんみたいだなんてそんな……やめてくれよ」
……もしかして嫌がられているのだろうか。僕だって今まさにディアウスさんに自分の子ども扱いされてほんのちょっぴり困惑している身でありながら、自分も似たようなことをしているだなんて。
「僕は、ただ……」
「ミノルは私の可愛い子です。リツの父親では……」
ディアウスさんが何か言いかけて数秒ほど硬直する。そして、
「ミノルがリツのお父さんだとしたら、リツは私の孫ということになりますね」
「なりません」
何かとんでもないことを言い出したのできっぱりと否定しておいた。
「それは残念です。家族を増やせると思ったのですが」
「勝手に私を養子にしようとしないでくれませんか……そもそも、福家さんのお父さんて貴方じゃなくないですか……?」
「……いいえ、ミノルの父は私ですよ」
そう言ったディアウスさんの顔は、いつもの優しい笑顔からは想像もつかないような顔で……相変わらず何を考えているのか表に出てこないけれど少なくとも不快感を隠そうとしているような、そんな風に見えた。こういうことを言われるのは、一番嫌いなんだろう。
「そうでしょう、ミノル?」
「そりゃま、遺伝子的には僕のお父さんはディアウスさんじゃないけど……僕の新しいお父さんはディアウスさんだし、これからもずっと僕のお父さんだよ。……これ以上はあんまり追求しないでくれるかな」
リツはいつもの顔のまま、ぷいとよそを向いてしまった。ありがたくはあるけれど、何だかちょっと寂しい。ミソラに無視されたときもこんな感じだったっけ。
「ロッソさんも、召し上がりますか?」
「いえ、ワタクシは結構です」
美味しいものでお腹いっぱいで、とっても賑やかで……なんだか眠くなってきた。ディアウスさんの膝の上に乗っかると、僕が寝心地のいいよう腕で優しく抱き抱えてくれた。お父さんの腕の中で揺られているともう眠りに抗えない。
「あれ、福家さん?」
「ミノルはおねむなようです。起きるまでそっとしておいてくださいね」
「……福家さんもディアウスさんも、わりと図太い性格してません?」
緩やかに夢の中に引きずり込まれながら、みんなの談笑する声を聞いていた。本当は今居るこの場所の方が夢で、僕の本当の家族が僕の目覚めを待っていたりしないだろうか。でも、もしそうだとしたらそこにディアウスさんや水鳥さんが居ないのは……ほんの少し寂しい気もする。
どうか、ほんの少しでも良いからこんな賑やかで楽しい日が続きますように。
「ミノル、寒かったり暑かったりはしませんか?」
「ちょうど良いくらいだよ、お父さん。日が落ちきる頃にはこっちも食べ頃になるかな?」
焚き火の中からはほんのりと良い香りがしてくる。何故僕らがこんなことをしているかというと、それはほんの1時間ほど前のこと。
「……焼き芋食べたい」
日に日に寒さが増してくる中、なんとなく秋の味覚を味わいたい気分になっていた。天使の襲撃に怯え、生きている他の人間と出会うこともほとんど無いこの時代、娯楽に飢えたこの体が食欲だけでも満たしたいと思うのは当然のことだろう。僕のこぼした欲望に、僕の契約している悪魔であるディアウスさんが反応する。
「焼き芋、というと焼いた芋のことですね。芋と一括りに言ってもその種類はごまんとあるようですが、何芋を焼きましょう?」
「普通は焼き芋といえばサツマイモだよ。サツマイモを焼いた石に埋めてじっくり火を通すと甘くてほくほくで……これぞ秋の味覚!って味になるんだ」
ディアウスさんは僕の父になりたがっているのだが、地球のこと、特に現代の文化についてはまだ知らないことも多いらしく僕がものを教える立場になることも多い。こうして過ごしていると、自分が父であった頃を思い出す。
「焼きじゃがも良いなぁ……バターたっぷり乗っけて……里芋にお塩振って日本酒と頂くのもオツだし……」
ものを食べる必要は無い体だというのに、おいしいものを想像すると何故か空腹感がわいてくる。
「ね、お父さん。一緒に焼き芋食べようよ。おいもなら畑とか貯蔵庫とかに食べられるのが残ってるはずだよ」
「ミノルが望むのならば、父としてそれを叶えましょう。まずはおいもを集めないといけませんね」
「じゃあ、お父さんはさつまいもを探してきてね。僕が火をおこして石焼き芋の準備をしておくから」
「もし何かあったら私を呼ぶんですよ。ミノルの声が聞こえたら、どこへいようと駆けつけますからね」
ディアウスさんはそう言って僕をそっと地面に下ろすと、芋を求めて飛び立った。何個か適当に見繕ってくれるだろうと思っていたのだが、どうも見積もりが甘かったようで。何か僕にお願いされたら全力で取り組まねば気が済まない性分のディアウスさんは、目を離した隙にそれはもう大量に芋を持ってきてくれていたのだった。
そんなこんなで、二人で芋入りの焚き火を前にぬくぬくしていると、遠くから誰かの話し声が聞こえてきた。
「なんか肌寒い……私の幸福が寒さのせいで減ってる……ロッソ、なんとかして」
「なんとかして、と申されましても天候ばかりはワタクシの力をもってしてもどうにも出来ないのですが。なんとかできるならとうになんとかしていますとも」
ぶつくさ文句をたれているのはおそらく水鳥リツ、その横に居る長身の陰は……おそらく彼女と契約している悪魔だろう。
「あれはもしかして……誰か居る?あったかいものでも恵んで貰わないと……このままだとつらい……」
「リツ様、あまり不用意に近づくことはお勧めできませんが……リツ様が望むのでしたら止める道理もありませんね」
向こうから二人が駆けてくるのが見えたので、こちらも手を振って反応を返してやる。黄昏時の明るさでははっきりと分からなかったが、近づいてきた二人はやはりリツとその契約者だった。
「こんばんは、二人とも。ちょうど良いところに来てくれたね」
「福家さんだったんだ……こんばんは」
リツはぺこりとお辞儀をすると、さも当然かのように僕の横に座ってきた。
「……水鳥さん?」
「くっつくとあったかいから……」
相変わらずこの子の考えることはよく分からない。さてどうしたものか、と考えていると彼女の契約悪魔――ロッソさんが体を前に折り曲げずずいとこちらに目線を合わせてきた。ディアウスさんといい、長身悪魔の間でこういう動きが流行っているのだろうか……
「ミノル様、こちらは一体何をなさっているのでしょう?万が一リツ様に危害が及ぶことがあれば……」
「顔が近くないですかね……えっと、僕は今おいしいものを作ろうとしていて……水鳥さんにも食べて貰いたいなと思っただけです、はい」
「ふむ、ならば良いでしょう。リツ様はいささか悪食なきらいがありますから、比較的常識的そうなアナタの用意するものでしたら……リツ様が食べようとするものよりはマシでしょう」
ロッソさんは僕の後ろをチラリと見て、何か「うちの子を脅すつもりじゃあないでしょうね」とでも言いたげなのであろうディアウスさんの顔でも見たような感じで引き下がっていった。
「おいしいもの……これ、食べるんですか?」
そう言ってリツが拾い上げたのは、足下に落ちていた芋のツル。僕の背後にはかまくらが作れそうなほど積み上がった芋のツルがあるが……
「福家さんも私と似たようなことをするんですね」
「変に納得しないでくれるかな……」
彼女がまじまじと眺めていた芋のツルを取り上げ、後ろの山に放り投げた。このまま彼女に持たせていてはいつ口に入れてしまうか分からない。
「食べられなくはないらしいけど、多分おいしくないよ。食べるのはあっち」
僕はツルの山の隣にある芋の山を指さした。これだけあれば満足してくれるだろうという目論見でディアウスさんが近隣から根こそぎ奪ってきたのではというほどの、考え得るあらゆる種類のお芋の山。
「おいもパーティーでもやるつもりなんですか?……楽しそうですね、おいもパーティー」
「……パーティにするつもりは無かったんだけどね……」
どうしてこんな事態になったのか、改めてリツに解説する。
「……なるほど……つまりはやきいもパーティーですか」
パーティー、という単語にリツの中の何かが反応したらしく、彼女は鞄をごそごそ探っている。中から出てきたのは、星形のパーティーサングラス。
「じゃじゃーん……ようやくこれの出番がきた……」
「妙に用意が良い子だこと……って、あっ……ちょっと!メガネ返して!」
「これが終わったら返しますから……どうですかね。ダブルメガネ」
……何かリツが渾身のギャグを披露しているような気がするが、薄暗さと視力の低さが相まって何も分からない。おそらくはあのサングラスと僕のメガネを同時に掛けているのだろうが。さて困った、と悩む間もなく誰かがひょいと僕のメガネを返してくれた。僕の顔を片手でつかめそうなくらい大きな手……ディアウスさんだ。
「あ……ありがとう……お父さん」
「大丈夫でしたか?……リツ、いじわるはいけませんよ」
普段よりもちょっと暖かい手でぽんぽんと頭を撫でられるのはとっても気持ちいい。それにしても、お父さんが誰かを叱るなんて珍しい。いや、普段は良い子だと言われるように気を遣っているし、他の人と接する機会が無いからそういう姿を見られないだけなのだろう。
「お父さん、そろそろおいも、焼けてると思うよ」
「では、一つ食べてみましょうか」
ディアウスさんは素手で火の中の石をひっくり返し、中からホイルに包まれた芋を取りだしてくれた。ふうふうしながら手の上で弾ませ、ほどよく冷めたところで半分に割る。すると中からサツマイモの甘い香りが吹き上がり、ほっくりとした黄色い中身が顔を覗かせた。
「……おいしそう……」
リツがじっと芋の方を見つめている。おいしいものを食べさせれば彼女も顔をほころばせたりするだろうか。
「お父さん、水鳥さんにもお芋、分けてあげてくれる?」
「ええ、良いですよ。はい、あーん」
「……子ども扱いしないでくれますか」
リツは口元に差し出された焼き芋に口をつけず、そのまま奪い取った。ディアウスさんに食べさせてもらうのは気に食わないらしく、自分で食べようとしている。
「いただきま……熱っ」
「焼きたてだから気をつけて食べないと。じゃあ、僕も」
ディアウスさんが食べさせてくれた熱々のさつまいもは舌が火傷しそうになるが、その刺激を優しい甘さと食感が上書きしていく。炭水化物を体が求めているのだと痛烈に感じぱくぱくと食べ進め、あっという間に皮だけになっていた。
リツの方は、皮ごと食べていたようだが。
「おいしいですか?満足するまで、どんどん食べてくださいね」
「あと10個くらいください」
この機会に食い溜めしておくんだ、とばかりに芋を口に運ぶリツの姿は僕の可愛い子どもたちのことを連想させ和やかな気分にさせる。僕のリツも大好きなシュークリームを小さな口でもくもく懸命に頬張っていた。年をとって大食いできなくなると若い子がご飯を目一杯食べる姿に喜びを感じるようになるとは言うけれど、僕はもうそんな歳になってしまったのかな。
「……どうしたんですか、福家さん。おいも冷めちゃいますよ。それとも私が食べましょうか?」
「僕はもう年だから君みたいに勢いよく食べれなくてさ。たくさん焼いてあげるから好きなだけ食べなよ。あと、あんまり慌てて食べると喉に詰まりやすいから気をつけるんだよ」
「お父さんとかみたいなこと言わないでくださいよ……あ、福家さんってお父さんだった……んでしたっけ」
「お父さんみたいだなんてそんな……やめてくれよ」
……もしかして嫌がられているのだろうか。僕だって今まさにディアウスさんに自分の子ども扱いされてほんのちょっぴり困惑している身でありながら、自分も似たようなことをしているだなんて。
「僕は、ただ……」
「ミノルは私の可愛い子です。リツの父親では……」
ディアウスさんが何か言いかけて数秒ほど硬直する。そして、
「ミノルがリツのお父さんだとしたら、リツは私の孫ということになりますね」
「なりません」
何かとんでもないことを言い出したのできっぱりと否定しておいた。
「それは残念です。家族を増やせると思ったのですが」
「勝手に私を養子にしようとしないでくれませんか……そもそも、福家さんのお父さんて貴方じゃなくないですか……?」
「……いいえ、ミノルの父は私ですよ」
そう言ったディアウスさんの顔は、いつもの優しい笑顔からは想像もつかないような顔で……相変わらず何を考えているのか表に出てこないけれど少なくとも不快感を隠そうとしているような、そんな風に見えた。こういうことを言われるのは、一番嫌いなんだろう。
「そうでしょう、ミノル?」
「そりゃま、遺伝子的には僕のお父さんはディアウスさんじゃないけど……僕の新しいお父さんはディアウスさんだし、これからもずっと僕のお父さんだよ。……これ以上はあんまり追求しないでくれるかな」
リツはいつもの顔のまま、ぷいとよそを向いてしまった。ありがたくはあるけれど、何だかちょっと寂しい。ミソラに無視されたときもこんな感じだったっけ。
「ロッソさんも、召し上がりますか?」
「いえ、ワタクシは結構です」
美味しいものでお腹いっぱいで、とっても賑やかで……なんだか眠くなってきた。ディアウスさんの膝の上に乗っかると、僕が寝心地のいいよう腕で優しく抱き抱えてくれた。お父さんの腕の中で揺られているともう眠りに抗えない。
「あれ、福家さん?」
「ミノルはおねむなようです。起きるまでそっとしておいてくださいね」
「……福家さんもディアウスさんも、わりと図太い性格してません?」
緩やかに夢の中に引きずり込まれながら、みんなの談笑する声を聞いていた。本当は今居るこの場所の方が夢で、僕の本当の家族が僕の目覚めを待っていたりしないだろうか。でも、もしそうだとしたらそこにディアウスさんや水鳥さんが居ないのは……ほんの少し寂しい気もする。
どうか、ほんの少しでも良いからこんな賑やかで楽しい日が続きますように。
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作者名:キューブ | 作成日時:2022年10月1日 23時