検索窓
今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:48 hit
鏡芥。
遅いと云うのが先か目を見開き彼女を見るのが先か、芥川は混乱した。小走りで己の元へと駆け寄る小さな恋人の召し物に驚いたのだ。真冬の日の光りを透かしてふわりとなでる純白のワンピヰスに足には黒いタイツと真っ白な低いヒールを履きチェックのストールを肩に揺らしている。見慣れた赤いべべの面影はなくそこには逢い引きの為にお洒落を施してきた女の子の姿があった。目を凝らしてよく見ると肉付きのよい頬には不自然に化粧が施され唇も心なしか赤く染まっている。よもや走ってきたからではあるまいな、と芥川は少々検討違いなことを考えつつその真意は理解しているようであった。
芥川は真逆の己の馬鹿げた挑発紛いのことをこの少女が受けるとは到底思っていなかった。昨夜、急に仕事が空いたと少女から連絡が来た。幸い芥川もその日は休みであり久し振りに逢い引きでもしたいという少女の願いを承諾した、が、芥川はそこにあろうことか条件を掛けてきた。芥川は早生まれの二十歳、実質二十一、それに反して少女はまだ齢十四の乙女だった。二人で肩を並べヨコハマを横断すれば道行く人々に如何いう目で見られるかなど容易に想像がつく。芥川はそれほど男女が付き合う中に年齢というものの重要性を感じない余にも珍しい男であったから恋人が幾つだろうと構いはしない、しかし犯罪が朝飯のように次から次へと起こるこのヨコハマで明らかに歳の離れた身内とも見えぬ二人が歩いていれば職業質問はされるだろう。芥川は指名手配犯であるためそれは避けなければいけない、そうは云ったって矢張り警察官を巻くことは容易だが、芥川がそこまで考えた時、ふとある悪戯を思いついた。とても可愛らしい赤子でもその提案には母のような豊かな笑みでもって返すだろう。その小さな恋人に成人した己とも対等で歩けるような、要は恋人らしく見える格好をして来い、もしそれが叶わぬなら今回の逢い引きは見送りだと、そう云った。電話の向こうで静かな声で話す小さな恋人は芥川が出した条件を快く飲み込み、一言、ぎゃふんと云わせてみせると下克上を叩き出して切ってしまった。
芥川には歳の離れた妹が居た。唯一無二の家族であり愛すべき人物である。歳の離れた妹とその小さな恋人を無意識に重ね、また恋愛とは異なる意味で彼は恋人を愛している。芥川は当日恋人がどんな格好をしてこようとどちらにせよ逢い引きするつもりであった。

ホムペを作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 0.0/10 (0 票)

このホムペをお気に入り追加 登録すれば後で更新された順に見れます
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような占いを簡単に作れます → 作成

作者名:一介の宇宙人 | 作成日時:2018年3月23日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。