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惡の華は栄えども
星が煌々と輝く星空の下、一台の黒いリムジンが走る。ここは■■国、聳え立つ城の広いパーティー会場。特に関わりがある訳でもないのに招待状が送り付けられた彼は今そこへと向かっていた。クッションの効いた座席に足を組んで座り、膝には飼い猫達を乗せて頭をわしわしと撫でている。


その斜め前には黄蘗が護衛として座っている。近接、というか何か会った時にすぐさまカウンターを喰らわせるなら彼が適任だという黒の判断だ。何しろ少数精鋭派なのでゾロゾロとSPを連れ歩くつもりがなく、あとは運転手(ドライバー)くらいしかこの車内にはいない。


「ぶっちゃけ胡散臭くね?」


「あーこんそめもそう思う?俺もそう思うんだよな」


うりうりと喉元を撫でてやる手を止めはせず、片手間に返事を返した。それくらいどうでもいいのだろうか。


「なぁにが建国記念日だよ俺関係ねぇじゃんおかしくね?寝たいんだけど」


「原人は寝すぎなんだよ、飯食って体力使えって」


「糖分使ってるから良いんですぅー」


膝から2匹とも脱走して行った。あ、と声を漏らすも怠惰な足腰は持ち上げられることなくクッションに引っ付いたまま。正直行きたくないのが現状だ。


我が国の建国記念日を祝しましてぜひ限界連邦の皆々様にもお越しいただきたい所存です。簡潔に言うとそんな内容の招待状は桃色のリボンと金の装飾で無駄に良いデザインをしている。クリーム色の台紙もよく厳選されたのだろう。


だからどうした。招待されたからには国家元首として行く義務があるなんて誰が決めたのだと嫌々乗り込んだリムジンの空気は悪い。普段は連れ歩かない飼い猫まで乗せたのは現実逃避のためである。


「げんぴょん国王陛下、こんそめ様、ご到着にございます」


やがてリムジンが巨大な城の入口前で停車した。広いレッドカーペットの両脇にズラリと並んだ甲冑の兵士達が暑苦しくてクラクラする。どうせならバニーガールでも並べてくれた方が黒のやる気も湧いたことだろうに。


「なぁ俺帰っていい?」


「ダメに決まってんだろ馬鹿。シャキッとしろよ」


「もう嫌なんだけど無理だって帰りたい!!がえ゛ら゛ぜで!!」


「ほら胡散臭くても行こうな〜」


「いじわるぅ!!」


なかなか降りて来ない2人に■■国の兵士達までもが困惑し始めたことに気付いてか、黄蘗はその鍛えあげられた手で黒の細い首根っこを引っ掴み引き摺り降ろす。


茶色い革靴と同時に黒いピンヒールが深紅のカーペットを踏んだ。もう後戻りはさせてもらえない。黄蘗を一睨みしてチッ、と舌打ちすると黒はベストに付いた猫っ毛を手で払った。ここからは腹を括って挑むのみだ。


カツ、とヒールを鳴らしてカーペットの中心を歩く。不機嫌さは抑えきれていないものの文句が止まっただけマシな方だろう。その右斜め後ろを黒いスーツに身を包んだ黄蘗が歩き、共に友好的な外面を振り撒くことなく淡々と城内へ。


導かれるがままに眩いほどのダイヤモンドのシャンデリアが照らすパーティー会場へと足を踏み入れた。燕尾服を身に纏うモノ、軍服のモノ、ドレスのモノ、スーツのモノと服装は様々でフォーマルであるという共通点のみが存在している。


へぇ、と吹き抜けの上階に位置するバルコニーに目を向けると、横から真っ白なスーツに身を包んだ男に声をかけられた。この国の代表格だ。


「これはこれは……こんな遠い所までよくぞお越しいただけました」


「いえいえ、お招きいただいたからにはお伺いしなくては。この度は建国3年目おめでとうございます。貴国の益々のご発展のほどお祈り申し上げます」


「心より感謝致します。是非とも貴方様とも良い関係を築きたい所存です」


嘘だ。顔に出ている、とりあえず顔を覚えて貰いたいだけなのが丸わかりだ。外面は良いに越したことはないがここまで作り物臭のする顔は三流以下にも程がある。並の詐欺師でももっと上手に笑うぞ。


「それではごゆっくりどうぞ。シェフの腕には自信があります」


「それは楽しみです。貴重なお時間を使ってくださりありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそ」


白スーツの男は奥のテーブルの方へと消えていった。どこまでも胡散臭すぎて吐き気がする。貴族なのであろう女性達の香水の香りが鼻に刺さってくるからか余計に。


別にそれが悪いわけではないのだが、一人二人という可愛い人数ではないから嫌なのだ。毒と同じ。量が多ければ許容量を超えて体に悪い。この場合精神にとって有害物になるから頭痛がしてくるのだろう。兎の繊細さをナメるなよ、すぐメンタルやられるからな。


だから来たくなかったのだ。優雅なパーティーは性にあわない、ナイトクラブに改装しやがれというのが本音だ。


「予想以上にキてんなぁ……」


「アイツ無理、マジで嫌いかもしんない。女なら許すけど野郎だから許さん」


「あの……大丈夫ですか?」


頭を抑えて顔を歪めていると、黄蘗よりは背の高い女性が黒に声をかけた。編み込んだ金髪と露出の少ないブラックドレスが特徴的で、とても整った顔立ちをしている。男達の波に揉まれたのか少々髪が乱れてしまっていることを除けば一般の令嬢のようだ。


「ありがとうございます、心配には及びません。むしろお嬢さんの方こそ大丈夫ですか?御髪が乱れていますよ」


「実は少し面倒な男性にしつこく話しかけられてしまいまして……。逃げる際に乱れてしまったみたいですね。お見苦しいものをお見せして申し訳ありません」


「そんなことありませんよ。災難でしたね。よかったら私が直しましょうか?これでも手先には自信がありまして」


「よろしいんですか?ありがとうございます」


さっきとは打って変わって女性向けフィルターがかかった。さすがは元ホストといったところか、女性との関わり方に関しては賞賛せざるをえない技量がある。黄蘗すら内心で感嘆するほどなのだから余程だろう。


しかしそれはこの女性の彼に対する接し方のおかげでもある。甘ったるくないシャープな香りに媚びない話し方、彼が限界連邦の国家元首であると分かっていながらの堂々とした佇まい。見栄を張ることが仕事の他の令嬢達とは違い素の自分で戦っている雰囲気があって気が楽になる。


近くに椅子でもあればそこで直そう……と思ったのだがこの会場内は立食向きでそれらしきものが見当たらない。ガラスの向こうの噴水広場の方にベンチが見える程度か。


「ひとまず外に出ましょうか。お嬢さんの御髪に触れたがために誰かの嫉妬を買うのはごめんでしょう。こんそめ、戻ってくるまでそこのテーブルで待機しといてくれ」


「了解しました」


そう言って黒と女性は会場から一旦出て行った。ワインやソテーが並べられた丸いテーブルに黄蘗一人残される。護衛が主人のもとを離れるなど本来ならあってはならないのだが、今回は問題ないと言いきれるだけの理由があった。


主人の命令。他に説明はいらない。


「シャンパンはいかがですか?」


金髪の青年が銀のトレーに2つのシャンパングラスを乗せて問うてきた。真っ黒なタキシードを見に纏い、黄蘗とあまり歳が変わらなさそうな彼の頭部では触覚らしき何かが揺れている。少なくとも彼はただのヒトではないのだろう。


仕事中にアルコールを体内に入れるのは些か抵抗があるが、酒有りきの付き合いというのも存在するから断りにくい。黄蘗はニコリと微笑むと、戴きますと答えグラスを1つ受け取った。


「もう1つは先程のお兄さんに差し上げてください。今夜が素晴らしい夜になりますように」


金髪の青年はもう片方のグラスをテーブルに置くと厨房の方へ去って行った。


グラスを傾ける。ゴク、と喉が鳴り冷たいアルコールが奥の方へ過ぎていったのが分かった。しかし不思議と酔いが回る感覚はなく、シュワッと泡の弾ける音だけが耳に入ってくるのでとても飲みやすい。


飲み干したグラスをテーブルに置いたとき、黄蘗は自身の前方に緑の短髪を掻き上げた男が立っているのに気が付いた。真っ黒なスーツが様になる高身長で、鋭い深紅の瞳が特徴的だ。


男は彼の存在に気付くと、バツが悪そうに眉間に皺を寄せた__と思いきや人当たりの良い笑みを浮かべた。ヘラッとこちらに手を振ると聞き慣れた声をいつもより小さな声で発してきて。


「こんそめさんじゃありませんか。もしかして陛下のお付きでこちらに?」


「そんなところ……です、ね」


コイツこんなに他人行儀だったか?正直目の前のこの男は眼鏡をかけていないので、黄蘗の知るあの男であるという絶対的な確信はないのだが……。知った声と酷似した見た目でそんな話し方をされると鳥肌がゾワゾワと立ってきて、ハッキリ言うと不快感が酷い。


「それはまたご苦労様です。陛下はどちらに?」


「先程女性と一緒に会場を出たところです。どうやら不躾な男性に絡まれてしまったらしいので」


「そうでしたか。いらっしゃるのなら一言ご挨拶を……と思いましたが仕方ありませんね。お話して下さりありがとうございました、失礼します」


男はそう言うと黄蘗の横を通り過ぎて行った。


「……栄光あれ」


そんな言葉を残して。

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作者名:匿名希望:我妻さん | 作成日時:2022年3月9日 10時

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