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──天国の住民に、届けたい言葉があるあなたへ。




読み切り型の超短編です。1時間で書きました。

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 5月6日は彼の命日だった。学校からの帰り道に、パピコと、かすみ草の小さな花束を買って、パピコを一本吸いながら、彼のお墓へと足を運んだ。
 苔と土がついた瓶を洗い、花束のビニールを剥いで、水を注いだそれに挿す。
 そこに魂が眠っていると思ってはいない。きっと彼の肉体や骨は、土の中にいる分解者によって綺麗になくなっているのだろう。消えてしまった肉体に、あまり興味はない。生き物はみな死んでなくなる。それは自然だ。
 私は私の中にあり続ける彼のほうが大切で、そちらに愛着があった。
 彼はとても優しかった。どうしようもない私のことを心配し、無邪気に振舞っては笑わせ、泣いたらそっと傍にいてくれた。
 誰からも忘れてしまったそのときが、彼の二度目の死だ。

 できることならば。

 できることなら、もっといっしょにいたかった。もっとたくさん出かけたかったし、いろいろなものを食べさせてあげたかった。私は自分の忙しさにかまけて彼の幸せなんて二の次にしていた。私には親も友達も恋人もいたけれど、彼には私しかいなかったのに。
 あのくりくりとした大きな瞳が、おひさまの香りが、もう思い出しにくい。ふわふわした耳も、つんとした鼻も、ひょこりと伸びていた黒い髭も、どこか画面の向こう側のようで、私はすこし悲しくなって、上を見上げた。
 澄んだ青い空がどこまでも抜けていた。



「局長、女性です」
 水色の奇抜な癖っ毛を帽子で押さえつけた若い男が言いました。
「見たらわかる。だからなんだ」
 目つきの悪い局長が、見もせずにそう言いました。室内なので、局長は帽子をかぶっていません。手紙の束の宛名を確認しています。
「声をかけてきます」
「手紙を出さないかと? やめておけ。彼女は後悔しているんじゃない。どうしても伝えたい気持ちがあるわけでもない」
「でも、会いたがっていますよ」
「どうせ会うことはできないだろうが。返事をもらってくることもできない。それは“余計なこと”だ」
「………………。配達に行ってきます」
「おう」
 水色の髪をした男はショルダーバッグにありったけの手紙を詰め、天国へと配達に出かけて行きました。
 局長がちらりと顔を上げて少女を見ました。少女は目元を一度だけ拭い、お参りの所作をすべて終えました。そして、2つ目のパピコを吸いながら帰って行きました。局長はふっと微笑みました。

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作者名:漆原 真 | 作成日時:2018年7月15日 14時

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