検索窓
今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:1,120 hit
どうもこんにちは、漆原です。

こちらのホムペには小説を載せています。

小説の方では文字数の関係で色々不具合があるので、ホムペでやらせていただきました。

非常に読みにくいので、文字を「大」にして読んでください。

短編集と称してプレイリストを作っていますので、良ければそちらもご覧下さい。


短編集↓↓
製作中
 小さい頃から俺は人気者だった。自分には、先天性の変な能力が備わっていたのだ。それは、目を見るだけでその相手を従わせることができるという、本当に変で、尚且つはた迷惑なもので。
 その能力を積極的に使い始めたのは、多分幼稚園のくらいの時だ。何か言えば皆が動いてくれることに気が付いていたんだろう、俺は王様のように振舞った。好きな女の子に告って、付き合ったことを覚えている。今付き合ってる女は何人か忘れた。ここ一週間では、三人とデートしたと思う。
 俺は今まで何でも手に入れてきたし、何でも許されてきた。そんな俺は、世界の王になったも同然だった。

 俺のクラスメイトに、なもと林檎という奴がいた。名前のとおり女だが、性別間違って生まれたんじゃねーの、というくらい男みたいな奴だ。実際、身長170cmある俺より数センチでかい。名前じゃなく苗字が平仮名なんて珍しいと思ったが、それだけだった。興味は湧かない。同じ中学だったというわけでもないし、暗い女は嫌いだ。そんな感じで大した関わりはなく、一学期が過ぎた。
 二学期、うだるような暑さの某日、行事もない普通の授業日のことだった。
「おい」
 肩に少し付く程度の、黒すぎでもない、かと言って茶色いわけでもない、中途半端な色をした天然パーマが、くるりとこちらを振り返った。ん? とでも言いたげな顔。どことなく天然さを感じさせる雰囲気。ただ、目は俺の目を射抜く、まっすぐな、まるで槍のようなものだった。
 なもと林檎。俺が落とした消しゴムを蹴ったのに気づかずに颯爽と去ろうとした貧乳の女。すらりとした余分な肉のない、むしろひ弱そうな身体。ほんやり、って感じのその顔は、男だったらモテそうな顔だ。
 短気な俺はキレた。俺は、ここで引き下がっておくべきだった。まぁ、結果論なのだが。
「消しゴム。拾え」
 なもとは俺の目を見つめていた。だから命令には大人しく従うはず。
 なのだが。
「……………」
「おい、聞いてんのか?」
 なるほど、こいつに友達がいない理由がわかった。
 ……ていうか。
「拾え」
「……………」
 幾ら無口な奴でも、命令がきかないなんてことは一度だってなかった。何で?
 ようやく戸惑い始めた俺には、さらなる混乱が待ち受けていた。
 なもとが不意に手を伸ばした。萌え袖にしたその手は俺の鮮やかな金髪を掴み、身を寄せて、口が耳元に近づく。
「川切薫くん、いい加減にしないと、舌噛みちぎっちゃうぞ。黙れ」
 初めて聞いたなもとの声。吐息の混ざった、囁くような中性的な声だった。その声に魅了された俺は、惚けてぼんやりとなもとを見た。なもとは手を離しながら歩みを再開し、ふらりと教室を出ていった。

 その日から、俺となもとは友達らしきものになった。とは言っても、俺はなもとのパシリみたいなもんだ。
「カワギリ君、おーいカワギリ君、起きてくださいよー」
 柔らかい声が耳元で聞こえて、俺はゆっくりと眼蓋を持ち上げた。
「カワギリ君、君が言ってた駅前の回転焼き、買ってきたよ。食べる?」
 なもとは俺をカワギリ君と呼び、俺はなもとをなもとと呼ぶ。
 なもとの声は、そいつのフルネームを呼ばなければ、命令がきかないそうだ。あと、俺の能力は通じないくせに、なもとの命令は俺に通じる。
 最近は、好きでもない女たちと遊ぶのはやめて、微妙に好意を抱き始めたなもとと一緒にいることが多い。なもとは、男っぽいようでいて、たまに女のようなこともある。そのギャップがいい。アイロンがけが手馴れてたり、掃除が好きだったり、そういう若妻みたいなところが、なんかいいのだ。今まで胸と脚で決めていた女という生き物に、こうも骨抜きにされるとは。
「あぁうん、ありが」
「あーん」
 たまに恐ろしいなもと。そういうのを冗談でやるなって、この前言ったのに。
「カワギリ君は甘いものが好きなんだよね? 可愛いなぁ」
「いや、あーんってなんだよ」
「口を開けろ、ってことだよカワギリ君」
 なもとはにこにこしたまま言った。なもとの『能力』による命令じゃないのに、従ってしまう。
「カワギリ君は犬みたいだ」
「お前は飼い主みたいだな」
 ボクっ娘のなもとは余計男に見える。しかし、こういう、イタズラ成功したあとの笑顔、みたいなのは可愛い。食べかけを差し出されて、間接キスになるな、なんて思ったが、何も言わずに見なかったことにした。なもとは、俺のことをただの理解者としか見ていない。なんとなくわかるのだ。なもとの俺を見る目が、恋愛の感情の方の好意的な目でないことは。
「カワギリ君、おいしい?」
「ん」
「そう。そりゃよかった」
 幸せそうな顔。悩みなんか無さそうだな、ほんとに。

「カワギリ君、今日僕の家に遊びに来ない? 残念ながら、性的なおもてなしはできないけれど」
「性的とか笑いながら言うな。お前なんか、女として見ねーよ」
「ツンデレだなぁ」
 我ながら子供だ。内心で頭を抱える。
「まぁ、女に見られなくてもいいんだけどね。一人の人として好きになってもらえれば」
 ドキッとした。なもとが、俺に好意を求めている。つまりそれなりに好かれているわけだ。今までの態度で、それはもう知ってるけど。
「あ、今ドキッってしたー」
「してない。断じてしてない」
「アハハ」
 とにかく、なもとの家に行けるらしい。わくわくしてきた。ちょっと、ほんのちょっと下心とかあるけど、極めて純粋に。

 部屋はすっきりと片付いていた。割と広い。一人っ子だし、と言っていた。天井まで届く本棚があって、それでも一杯になっている。床にもハードカバーの本が重ねて置いてある。背表紙を見る限り、全て小説のようだ。
「小説を読むのは人生経験になるよ」
「はぁ?」
「人の気持ちを赤裸々に綴ってあるから、現実でも、人の気持ちがよくわかるようになる」
「ふーん」
 あんまり興味は湧かなかったが、なものが勧めるのならと何か借りて帰ろうと考えた。
 なもとが無難にデスクの椅子に腰掛けるので、ベッドに座って「おいで」と言ってみたら、川切薫くん、とニコニコ笑顔で呼ばれた。意図せず体がこわばる。
「おいで」
 なもとが両手を小さく差し出した。脳内に麻酔がかかって、体が勝手に動く。なもとの前で片膝をついたら、はっと我に返った。
「……なもと」
「何?」
「怒ったんなら言えよ」
「別に怒ってないよ。いい眺めだ」
「ムカつく……っ!」
「カワギリ君は……」
「ん?」
「いや」
 とりあえず立ち上がり、元の場所に戻る。布団からなもとの匂いがする。枕を抱きしめて、足元に落ちていた小説を拾った。
「ハムレット? 好きなのか? こんなのが」
「好き」
「あっそ」
 読み込まれている。文庫本なので、よれよれでぺらぺらだ。大人だな、こいつは。
「にしても、女子高校生の部屋に漫画がないとは」
「親の教育でね。アニメ見ないし、漫画もほとんど読まない。でも面白いよね。絵の才も文の才もいるし」
「俺の部屋はむしろ漫画しかない」
「読むだけいいでしょ」
「え」
 目を丸くした。そんな風に言う奴、初めて見た。
 なもとは、本当に、どこかズレた奴だ。

 トイレを借りて、足元のふわふわのマットにわくわくして、トイレから出た。部屋に向かいドアを開けたら、さっきまで俺が座っていたベッドで、なもとがゴロゴロしていた。
「……………」
 やばい、なんか頬が熱い。とりあえず言うか。
「なもとさん、男子の前でそういうのは」
「カワギリ君は、そんなことをしないよ」
「男なんてみんなオオカミだぞ」
「違うよ。君は、僕が死ねって言ったら死んでしまうことを知ってる」
 仰向けでこちらを見つめる目が、何かを語ろうとしている。
 何だ? 聞き逃したくない。
「僕の能力が芽生えたのはね、父さんが死んだ頃なんだ」
「え」
「僕は父さんとドライブに言って、事故に遭った。その時、僕は、父さんの魂の代わりにこの能力をもらった。悪魔に」
 なもとは目元を腕で覆って隠した。
「父さんは即死で、お腹を空かせて魂を食べちゃった悪魔は、生き返らせることはできないって言ったんだ。僕は携帯で救助を呼んだ。この能力は、父さんを代償にしてる」
 背筋を冷たいものが這ってくる。
「父さんを代償にした力なんて要らなくて、生きてる自分が憎くて死にたくもなった。けど死ななかった。僕が死ねば、父さんがいなくなる。父さんは僕の中にいるんだって思った」
 なもと。
「君の力が僕に効かないのは代償がないからだ。代償もなしに能力を持っているお前だからだ」
「なもと」
 なもとは手をのけて、俺の目を見つめた。
「僕はお前を殺せる。嫌いだ。お前なんか嫌いだ」
 あ、殺される。
 そう思った。でも、いいのかもしれない。
 最初から、なもとは俺のことが嫌いだったのだ。
 俺の初恋はこれで終わりで。
 それで、
いいのかもしれない。

 好きな人に殺されるのなんてそれこそ。

「なもとがそうしたいなら、死ぬよ」
「うん」
「でも、死ぬならお前の手で殺して欲しい」
「何で?」
「なもと林檎が、好きだ」
 なもとが黙った。
「川切薫」
 なもとが呼んだ。
「何?」
「……………」
 ぎゅっと抱きしめられて、耳元で、聞きなれた、それでも聞き惚れる、中性的な美しい声が咲く。
「抱きしめ返せ」
 手が勝手に動く。けど、別に意思に反した動きではない。

 モテすぎて恋がわからなくなった小さい頃の俺が想像していた恋は、甘くて愛らしくてドキドキするだけのちゃちなものだった。今ならその頃の俺が可愛く思える。
 本当の恋ってのは、そんな簡単なもんじゃ、ないみたいだ。

ホムペを作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.5/10 (22 票)

このホムペをお気に入り追加 登録すれば後で更新された順に見れます
2人がお気に入り
設定タグ:SF編 , 漆原真   
作品ジャンル:その他, オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような占いを簡単に作れます → 作成

作者名:漆原真 | 作成日時:2013年12月4日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。