マシュマロの行く末【オリジナル超短編小説／枢町草葉荘シリーズ12】

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本作は枢町草葉荘シリーズの12作目です。登場人物紹介はこちら。
※登場人物紹介はネタバレを含みます。本編を読了後の閲覧を推奨します。

今回もマコトは高校生です。バレンタインデー後の話です。30分で書いた。超短い。

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　二月十五日の昼下がり、調理場から甘い匂いが漂ってきた。
　休憩のために茶を沸かしにキッチンへ向かった響は、そこに立っている男がいることに気がついて、目線を上げた。
「珍しいな、おまえがここにいるとは」
　そう声をかけてやかんを出す。だぼだぼのズボンに長袖Tシャツを着たラフな格好のマコトは、振り向きはせず、そこそこ機嫌よさげに、うんと返事をした。
「間食か？」
「食う？」
「くれるのか？」
「やるよ？」
「ますます珍しいな」
「もらいもんだからさ」
　ざっざっ、とコーンフレークをフライパンの中身にかける。
「もらいもの？」
　手元をのぞくと、マコトは、溶かしたマシュマロをコーンフレークと絡めていた。
「誰から？」
「クラスの女子」
「ああ、バレンタインデーか。よくやるな。しかしおまえ、マシュマロ嫌いだったろう」
「そうだよ。人のことよく調べもせず押し付けるとか、好きな相手にする行為じゃないだろ。なにが『食べてください』だよ食べねえよ」
　機嫌よさげなまま、そんな尖った台詞が吐かれるものだから、響はすこしむっとした。
　マコトのわきには、明らかに既製品のそれではない包装のがらが置いてあった。
「作り直してるのか？」
「ああ」
「それはないだろう。おまえは人の気持ちをなんだと思ってるんだ」
「クズですから？」
「おまえな……」
「誰も傷ついてないのにどうしてだめなのさ？　たとえ知ったとしても、このままゴミ箱か利久の胃袋に直行しておれになんの感情も与えないのと、加工して食べられるの、どっちがまし？　たぶん後者だろ？」
「食べるっていう選択肢はないのか？」
「おまえは嫌いなもんでも食べるのか？」
「おれに好き嫌いはないぞ」
「じゃあ、髪の毛が入ったチョコなんか食べれる？」
「……それは、すこし無理があるが」
「だろ。食べられないなら、思いがこもってても結局捨てるだろ。おれは加工すれば食べれるようになるパターンだから、そうするだけだよ」
　マコトは皿の上に塊を掻き出した。
「はい、できた」
　マコトは響に微笑みかけた。悪魔のような微笑みに見えた。

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