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死を受け入れられる人などいるのだろうか。
それは私の短い生涯のなかでも二番目の疑問だった。一番目の疑問は私自身についてであるが、そこはどうでも良い。
人間として精神を正常に保っている限り、死に恐怖しない人など存在しえないだろう。
私は正常だった、水に溺れて流されてたまに岩にぶつかって激しい痛みが体の中に釘を打つように響いてくるこの惨たらしい状況で私は恐怖している。そんな事実に至極安堵してしまっていた。
今も言ったが私は溺れているのだ、もうそろそろ意識も消えるのだろう。
そして遺体として発見されても見るに耐えない姿に違いない、まだ冬だったら綺麗な死体になれたかもしれないが、夏は駄目だ。見つかる頃にはすっかり浮腫んで、顔と体は衝撃で痣が無数に出来上がっているに違いない。
しかし、なんというのだ。青葉の木漏れ日がちらちらと水の底から見ても美しく輝いているというのは良いものだ。
これぞ自然的な美しさとも言えるだろう。
そこに死体を添えてしまうのはとても申し訳なく感じるが、許してくれよ。
下流には珍しい少し大きめの岩がガッと当たった。頭が朦朧として、体内の酸素濃度が薄くなってきた気がする。
溺れ始めたとき、何故私は抵抗もせず流れのままに、なすがままにしていたのだろうか。
ガボッと顔だけが水から出る。呼吸を大きく行うと、急に酸素が体内に侵入してきたことに体が驚いたのか噎せてしまう。浮いたり沈んだりを繰り返してみようか、どうせ体力はもう残されていないけど。
青葉の煌めきも太陽の陽気さも全ては美しく在り、世界は美しさで成り立っている。綺麗ではないが美しさに満たされたこの青い星はまた理屈でも成り立っている。私はそれらに深く興味を持ち、大学と院に合計六年間通い、企業の研究職につけたわけだが、努力というものも散るときは散るもので、現に命を落としかけている私は26歳という比較的短い命になるのだろうな。
“すてきな花輪を
垂れた枝にかけようと
柳によじ登ったとたん
意地の悪い枝が折れ
花輪もろとも、まっさかさまに
涙の川に落ちました。
裾が大きく広がって、
人魚のようにしばらく体を浮かせて
そのあいだ、あの子は古い小唄を口ずさみ
自分の不幸が分からぬ様子
まるで水の中で暮らす妖精のように。
でも、それも長くは続かず
服が水を吸って重くなり、哀れ
あの子を美しい歌から
泥まみれの死の底へ
引きずり下ろしたのです。”
唐突にハムレットの一節が思い出された。オフィーリアの死を話す、世界でも評価されるセリフではあるが、少し今の私の状況に似ているのかもしれない。
「ねぇ、川に誰かの顔が見えなかった？」
馬鹿馬鹿しい甲高い耳障りな声が聞こえてきた。不快だ、吐き気がする。阿呆の声は聞くに堪えない無知が滲み出ている。
「え、何それどんな冗談ー？昼間から幽霊の話なんてくそつまんなーい。とりま写真撮ってみるー？」
クソッタレ、消費しか考えず政治も素晴らしい世界についても考えない馬鹿野郎どもに醜態だなんて晒してやるもんか。
「やっぱ見えないじゃーん。もーどーでもいいわー。」
愛すべき母国語すらまともに扱えない下等生物め。もし宇宙に地球外生命が存在したとしたら、コイツらのアホのような頭よりかは何倍も賢くあるのだろうな。太陽系での地球外生命の発見は絶望視されているから、発見されるとしたら少なくとも太陽系外惑星であろうが。可能性が最も高いのはケプラー22bなのだろうか？少なくともハビタブルゾーン内に位置する惑星であることと思うが、まぁ良く分からない。
地球外生命体さんよ、ボイジャー1号のゴールデンレコードをさっさと解読してくれ。日本からなら尺八の音楽を届けてやれるぞ。
何かが巻き付いた。植物が太ももから足先にまで絡んで、また胴体にも絡んでいる。体の体制がおかげで安定したので水面から顔をだして今度こそゆっくりと呼吸行った。空気が美味しい、甘い味がする。
私がこの世界に恨むことは、”美しき世界に害悪が存在すること“であろうか。
代替案なく批判する者、世界に興味を持たず自己完結させている者、全て死んでしまえ。苦しみ悶えて死んでしまえ。ならばこの世界は浄化され、本来の美しさを取り戻すだろう。
地球の青さも、若葉の新緑も、荒れ果てた大地も、万物の美しさが１つに集約され輝くのだろう。
ふと、私は私自身の体を見た。
躊躇わずに植物の命綱を自ら絶った。
そして私は溺死した。
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死を受け入れられる人などいるのだろうか。
それは私の短い生涯のなかでも二番目の疑問だった。一番目の疑問は私自身についてであるが、そこはどうでも良い。
人間として精神を正常に保っている限り、死に恐怖しない人など存在しえないだろう。
私は正常だった、水に溺れて流されてたまに岩にぶつかって激しい痛みが体の中に釘を打つように響いてくるこの惨たらしい状況で私は恐怖している。そんな事実に至極安堵してしまっていた。
今も言ったが私は溺れているのだ、もうそろそろ意識も消えるのだろう。
そして遺体として発見されても見るに耐えない姿に違いない、まだ冬だったら綺麗な死体になれたかもしれないが、夏は駄目だ。見つかる頃にはすっかり浮腫んで、顔と体は衝撃で痣が無数に出来上がっているに違いない。
しかし、なんというのだ。青葉の木漏れ日がちらちらと水の底から見ても美しく輝いているというのは良いものだ。
これぞ自然的な美しさとも言えるだろう。
そこに死体を添えてしまうのはとても申し訳なく感じるが、許してくれよ。
下流には珍しい少し大きめの岩がガッと当たった。頭が朦朧として、体内の酸素濃度が薄くなってきた気がする。
溺れ始めたとき、何故私は抵抗もせず流れのままに、なすがままにしていたのだろうか。
ガボッと顔だけが水から出る。呼吸を大きく行うと、急に酸素が体内に侵入してきたことに体が驚いたのか噎せてしまう。浮いたり沈んだりを繰り返してみようか、どうせ体力はもう残されていないけど。
青葉の煌めきも太陽の陽気さも全ては美しく在り、世界は美しさで成り立っている。綺麗ではないが美しさに満たされたこの青い星はまた理屈でも成り立っている。私はそれらに深く興味を持ち、大学と院に合計六年間通い、企業の研究職につけたわけだが、努力というものも散るときは散るもので、現に命を落としかけている私は26歳という比較的短い命になるのだろうな。
“すてきな花輪を
垂れた枝にかけようと
柳によじ登ったとたん
意地の悪い枝が折れ
花輪もろとも、まっさかさまに
涙の川に落ちました。
裾が大きく広がって、
人魚のようにしばらく体を浮かせて
そのあいだ、あの子は古い小唄を口ずさみ
自分の不幸が分からぬ様子
まるで水の中で暮らす妖精のように。
でも、それも長くは続かず
服が水を吸って重くなり、哀れ
あの子を美しい歌から
泥まみれの死の底へ
引きずり下ろしたのです。”
唐突にハムレットの一節が思い出された。オフィーリアの死を話す、世界でも評価されるセリフではあるが、少し今の私の状況に似ているのかもしれない。
「ねぇ、川に誰かの顔が見えなかった？」
馬鹿馬鹿しい甲高い耳障りな声が聞こえてきた。不快だ、吐き気がする。阿呆の声は聞くに堪えない無知が滲み出ている。
「え、何それどんな冗談ー？昼間から幽霊の話なんてくそつまんなーい。とりま写真撮ってみるー？」
クソッタレ、消費しか考えず政治も素晴らしい世界についても考えない馬鹿野郎どもに醜態だなんて晒してやるもんか。
「やっぱ見えないじゃーん。もーどーでもいいわー。」
愛すべき母国語すらまともに扱えない下等生物め。もし宇宙に地球外生命が存在したとしたら、コイツらのアホのような頭よりかは何倍も賢くあるのだろうな。太陽系での地球外生命の発見は絶望視されているから、発見されるとしたら少なくとも太陽系外惑星であろうが。可能性が最も高いのはケプラー22bなのだろうか？少なくともハビタブルゾーン内に位置する惑星であることと思うが、まぁ良く分からない。
地球外生命体さんよ、ボイジャー1号のゴールデンレコードをさっさと解読してくれ。日本からなら尺八の音楽を届けてやれるぞ。
何かが巻き付いた。植物が太ももから足先にまで絡んで、また胴体にも絡んでいる。体の体制がおかげで安定したので水面から顔をだして今度こそゆっくりと呼吸行った。空気が美味しい、甘い味がする。
私がこの世界に恨むことは、”美しき世界に害悪が存在すること“であろうか。
代替案なく批判する者、世界に興味を持たず自己完結させている者、全て死んでしまえ。苦しみ悶えて死んでしまえ。ならばこの世界は浄化され、本来の美しさを取り戻すだろう。
地球の青さも、若葉の新緑も、荒れ果てた大地も、万物の美しさが１つに集約され輝くのだろう。
ふと、私は私自身の体を見た。
躊躇わずに植物の命綱を自ら絶った。
そして私は溺死した。
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作者名：レネット | 作成日時：2021年10月24日 23時
