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もう動かない歯車3【WT】に入りきらなかった番外編詰めです
本編を一読した上での閲覧をお勧めします
《目次(？)》
Genius→当真
Sourire→風間
Ahead→諏訪
単語の意味は話毎の最後に記載しています
もう動かない歯車3【WT】に入りきらなかった番外編詰めです本編を一読した上での閲覧をお勧めします
《目次(？)》
Genius→当真
Sourire→風間
Ahead→諏訪
単語の意味は話毎の最後に記載しています
Genius
俺は、まぁボーダーに入った頃からそこそこ狙撃の腕はあったらしい
ガキの頃からゲーセンで狙撃のゲームよくしてたからだろうな
正式入隊の時には既にポイントは3000越え
案の定B級へは一瞬で上がれた
同期の穂刈も腕はあったから間もない内に上がってきた
けど
つまらない
張り合いがない
的狙って、撃って、当てる
その繰り返し
たまにくだらなくなる
何が楽しいんだか
真面目に訓練して何になる
これ以上何すりゃいいんだ
飲み終わったパックジュースのストローを咥えながらボーッと視線は宙を仰がせる
休日だから人の多いラウンジでこのまま寝ようかと目を瞑ると突然ずしりと肩に重しが乗った
驚いて目を開けるとそこには嬉しそうに笑っている沙崎の姿が
「んだよ、YOUさんかよ」
「やっほー、勇。合同訓練サボって何やってんの？」
「それはYOUさんもだろー？」
「違いますー。私は勇を呼びに来たんですー。ほら、訓練行くよ」
沙崎にそう言われ、だるそうに伸びをしながら訓練室に向かう
着くと既に他のスナイパー達が訓練をしていた
この時はまだスナイパー志望は少なく、数えられる程度しか人数は居なかった
だから、つまらないんだよ
「……東さーん。アイビスでやっていいですか？」
「イーグレットな」
「ちぇ…っ」
口を曲げながらスコープを覗く沙崎
銃声と共に的のど真ん中に穴が開く
続けてもう１発撃つとそのまま先程空いた穴をすり抜けた
周りを見ると他の奴らも真面目に訓練している
こんな真面目にやって、何が楽しいんだか
基礎さえ分かっときゃ後は感覚でいけるだろ
「なぁー？YOUさんはなんで真面目に訓練すんの？」
「え？やらなかったら東さん怒るじゃん」
「や、そうだけどさ」
「訓練なんて俺には必要ない、って顔だね？」
「お？バレた？」
「勇なら絶対そう思ってるて分かってたから」
ふふふ、と嬉しそうに沙崎は笑う
あ、こりゃ怒らせちまったな、と思いながら当真は自分のうなじを掻いた
ゆっくりと、沙崎は目を細めて当真を見つめる
「自分が生まれ持って恵まれた天才だとでも思ってる？」
「……」
「勇は、天才なんかじゃないよ」
「……あ？」
当真の表情が一瞬だけ怒りの表情に変わった
だが、すぐにいつもの飄々とした声音に戻す
「じゃあ、YOUさんは俺が平凡だって言いてーの？」
「ん？そうじゃないよ。確かに勇は周りより狙撃上手いし、センスはある。
けど、それが努力なしで身に付けたって事じゃないでしょ？」
「はは、相変わらず鋭いなー」
「勇の手を触ったら分かるもん。今はサボってるけど入隊したばかりの時猛訓練してたでしょ」
初めは何を言っているか分からなかった
だが、理解した途端、顔が熱くなる
背後からぶっ、と誰かが吹き出す音が聞こえた
笑ったやつ、後でしばく……
「そ、ういう、YOUさんは、どうなんだよ？自分の事出来る人ー、みてえによく言うけど」
「……、努力は、努力しただけ身になる。私は自分が完璧な人間だとは思ってない」
ふわりと笑いながら沙崎は自分の掌を握り締める
どこか、悲しみを押し潰しているかのような、そんな表情をしていた
「だから、私は努力するんだよ。もう誰も失わないように。みんなを守れる力をつける為に、ね」
そういう沙崎の姿は、とてもかっこよかった
真っ直ぐと先を見ている
目標がある
俺は、何もない
はは、と笑うと沙崎は「馬鹿にしてるでしょー！」と怒りながらも笑っていた
YOUさん、俺分かったよ
あんたみたいな人を『天才』って言うんだな
ただ実力があるだけとは全く別モンって事だ
Genius=天才
fin
＿＿＿＿＿＿
Sourire
「蒼也」
あいつの声が聞こえると心がとても軽くなる
穏やかな気分になれる
肩の荷を下ろさせてくれる、優しい声
「どうしたYOU」
「んー？呼んでみただけだよー」
ふふふ、と沙崎は無邪気に笑った
同い年とは思えない程、口角を上げてにんまりと笑う
応えるように風間も微笑むと沙崎は眉を少し下げた
「蒼也はあまり笑わないよね？」
「そうか？」
「うーん。なんか、硬い感じ？」
「YOUはいつも笑っているな」
「笑顔が取り柄なんですー」
とへらへら笑う
こいつは色んな笑い方をする
心底楽しそうに笑ったり、悲しい顔をしながら笑ったり、怒りながら笑ったり
前に諏訪にこの話をしたら「全部同じ顔じゃね？」と流されてしまった
だが、見ていたら分かる。こいつが今どんな気持ちで笑っているのか
いや、それだけ俺がYOUを見ているという事か…
「そしたら洸太郎がね！禁煙しろとか言ってくるの！絶対洸太郎の方が吸ってるよね！？」
「YOUさんも結構吸ってると思うけど」
「哲次見た事ないでしょ」
「ある。前任務帰りに見かけた」
「えー！誰にもバレないように吸ってるのに！」
「あれだろ、非常口抜けた角の室外機の影」
「怖いって！なんで知ってんの！？」
「前に東さんが言ってた」
「ぐぅぅ…！！」
ラウンジに行くと、沙崎が荒船と向き合うように座り、愚痴を溢していた
机に突っ伏したかと思うと顔を上げてまた微笑む
それを見た荒船も呆れるように笑った
「あ、蒼也」
「風間さん。こんにちは」
「あぁ」
「もう、蒼也も聞いてよー！洸太郎がさぁ！」
「聞こえていた。煙草だろう？諏訪もYOUもお互い禁煙しろ」
「無理無理ー。蒼也の身長が170cm超えるくらい無理ー」」
「ほう…？いい度胸だなYOU。今日は野宿でもするか？」
「わー！ごめんなさい！！」
その様子にくすくすと荒船が笑う
むぅ、と頬を膨らませた沙崎が荒船を見た
「哲次、馬鹿にしてるでしょー」
「してねぇよ。YOUさんが本部に来てる時は賑やかだと思っただけだ」
「へへ。人気者は辛いね」
「それは違うだろ」
「あ、YOUさん」
「あ、悠一！今日は玉狛じゃないんだね」
「うん、城戸さんに用があってね」
YOUの周りには、人が集まる
それも、きっとあの笑顔の引き寄せられるんだ
俺は……あいつの笑顔以外の表情は見たくない
見たく、ないんだよ
「こうたろう…、そうや……。ごめんね…私……」
そのまま沙崎は気を失って倒れこむ
頭が真っ白になり、呆然としていると諏訪が急いで沙崎の身体を抱える
濃緑の袖が真っ赤に染まっていく
俺が…、倒せと、指示を出したからか…？
俺が、YOUを………＿＿＿
沙崎の顔は青白く、また苦痛で眉根に皺を寄せている
病院に搬送され、一命は取り留めたようだったが、１週間経っても目を覚まさない
俺は、会いに行けなかった
会わせる顔が無かったんだ
「風間さんって嫌な事とか根に持つタイプですか？」
「……今その話は関係ないだろう」
「んー？いや、確かに関係っちゃ関係ないでしょうけどー。俺はそん時敵なら仕方ないと思いますよ。
あ、ランク戦と思えば」
「俺が、殺そうとしたんだ。あいつを」
「……」
反対側に座っていた出水が飲み物を啜る
ふう、と一息付いてはにかむ
「本人はそんな事気にして無さそうっすけどねー」
「何…？」
「目を覚ましたらしいっすよ、昨日。んで、早速本部に来てましたー……って、もう居ねえし」
出水からその事を聞くと急いでラウンジを出た
早く、会いたい
あんなにも会いに行けないなどと言っていた自分を押し退けて探し回った
会って、そして、謝りたい
「ーーー、YOU！」
「わっ！蒼也じゃん。いきなり大きな声出してどうしたのー？」
ふわり、といつもの穏やかな笑顔を向ける
やっぱり、こいつの笑顔は凄い
全て、忘れさせてくれるような、優しくて…
...
頭の奥で、誰かの泣く声が聞こえる
悲鳴のような、喉が張り裂けそうな程叫んでいる
これは、俺の声か…？
悲しみからか頭が混乱して平静を保てない
ただ、ただ、泣き叫び、幾つもの涙を流し続けた
涙が枯れても、叫びは収まらない
頼む、笑ってくれ
目が覚めた日からお前が悲しみや苦しみを押し殺して笑っていたのは知っている
けど、俺はお前の笑顔が好きで
どんな笑顔でも大好きで
だからこそ、そばに居て、その笑顔を自分に向けて貰いたかったんだ
だから、頼む
「目を、目を……開けてくれよ……っ、YOU……っ」
…
「風間」
「諏訪か。どうした」
「ん？いや、この前の写真現像出来たから渡そうと思ってよ」
「写真？……あぁ、あれか」
「おう。んじゃ、荒船とかにも渡さねえといけねえし」
「あぁ。わざわざすまないな」
諏訪と別れ、その写真を見て、ふっ……と笑う
「馬鹿みたいな笑い方だな」
その沙崎の表情は目に涙を溜めながらも精一杯微笑んでいた
この時、沙崎は自分の未来が分かっていたのだろう
だから、写真を撮ろうと言い出したのだ
その周りを見ると、みな嬉しそうに笑っている姿が映っていた
風間も、少しぎこちないが笑顔を作っている
『私、蒼也の笑ってる顔好きだよ！いつもむってしてるから余計にね！』
そんな言葉を思い出して再度写真を見つめる
目を細めて写真を撫でる
「俺も、お前の笑顔が大好きだったぞ。YOU」
もう、その笑顔はこの写真でしか見れない
だが、覚えている
あいつの表情、声、全てだ
容易く思い出せる
それくらい、あいつが好きだったから
Sourire=笑顔
fin
＿＿＿＿＿＿
Ahead
「悪いなYOU。遅くなっちまった」
静かな峠に諏訪の声が微かに響き、虚しく消える
手に持った花を添えてその横にビールと好物のチーズを置き、吸っていた煙草をそのまま添えた
顔を上げて名前の掘られた石を撫でる
「この墓、ボーダーの人らみんなで金出し合ったんだぜ？本当は俺ら３人でって話だったんだけどよ、いつのまにか話が漏れててよ…」
くっくっ、と笑った後に目を細めて墓を撫で続ける
「俺さ、お前と初めて会った時『何でこんな奴と馴れ合わなきゃなんねーんだ』とか思っててよ。
お前も同じ事思ってたかもしんねえけどさ。けど、今はお前と出会ってて良かったと思ってる。
いい歳してんのに馬鹿みたいにふざけたり、笑ったりして。それがすっげえ楽しかった。
やっぱお前は凄えよな。けど、たまには弱音も吐いてもよかったんだぜ？
お前なんでも１人で溜め込む癖があっから」
その言葉が沙崎に届かないと、分かっていたとしても諏訪は話すのを止めなかった
ここで止めてしまったらもう、２度とそれは口に出せなくなるような気がしていたから＿＿＿
「そういや俺さ、来年からエンジニアに移ろうと思ってんだよ。
諏訪隊が解散になんのは寂しいけど、やりたい事が見つかったんだ。
堤とかに言ったら背中押してくれたよ。それをお前にも伝えとかなきゃいけねえと思ってさ」
立ち上がって、空を仰ぐ
日が沈みそうな空は橙色と紺色が混ざり合った色をしていた
目を凝らすと微かに星も見える
「お前のトリガーを改良して、別の奴が使えるようにする。
もう使えなくなんのは勿体ねえだろ」
嫌味を言うかのように笑ってから、表情を戻して１度息を吐く
「そのトリガー、荒船に使わせてやろうと思ってな。
あいつ木崎みたいなオールラウンダー目指してるらしいから。
お前も、それでいいか？」
その問いに、勿論返事はない
墓に添えていた消えかかっている煙草をもう一度咥える
そのまま背を向けて歩き出す
『哲次になら、使って貰ってもいいかな〜』
ぴたり、と足を止めて振り返る
その途端強い風が吹き、煙草を落とす
あの皮肉な声が、聞こえた気がした
いや、気の所為か……
諏訪はその煙草を拾い、その場を去っていく
『………、またね、洸太郎。ありがとう。…大好きだったよ』
その声はまた風と共に静かに消えていった
Ahead=その先
fin
俺は、まぁボーダーに入った頃からそこそこ狙撃の腕はあったらしい
ガキの頃からゲーセンで狙撃のゲームよくしてたからだろうな
正式入隊の時には既にポイントは3000越え
案の定B級へは一瞬で上がれた
同期の穂刈も腕はあったから間もない内に上がってきた
けど
つまらない
張り合いがない
的狙って、撃って、当てる
その繰り返し
たまにくだらなくなる
何が楽しいんだか
真面目に訓練して何になる
これ以上何すりゃいいんだ
飲み終わったパックジュースのストローを咥えながらボーッと視線は宙を仰がせる
休日だから人の多いラウンジでこのまま寝ようかと目を瞑ると突然ずしりと肩に重しが乗った
驚いて目を開けるとそこには嬉しそうに笑っている沙崎の姿が
「んだよ、YOUさんかよ」
「やっほー、勇。合同訓練サボって何やってんの？」
「それはYOUさんもだろー？」
「違いますー。私は勇を呼びに来たんですー。ほら、訓練行くよ」
沙崎にそう言われ、だるそうに伸びをしながら訓練室に向かう
着くと既に他のスナイパー達が訓練をしていた
この時はまだスナイパー志望は少なく、数えられる程度しか人数は居なかった
だから、つまらないんだよ
「……東さーん。アイビスでやっていいですか？」
「イーグレットな」
「ちぇ…っ」
口を曲げながらスコープを覗く沙崎
銃声と共に的のど真ん中に穴が開く
続けてもう１発撃つとそのまま先程空いた穴をすり抜けた
周りを見ると他の奴らも真面目に訓練している
こんな真面目にやって、何が楽しいんだか
基礎さえ分かっときゃ後は感覚でいけるだろ
「なぁー？YOUさんはなんで真面目に訓練すんの？」
「え？やらなかったら東さん怒るじゃん」
「や、そうだけどさ」
「訓練なんて俺には必要ない、って顔だね？」
「お？バレた？」
「勇なら絶対そう思ってるて分かってたから」
ふふふ、と嬉しそうに沙崎は笑う
あ、こりゃ怒らせちまったな、と思いながら当真は自分のうなじを掻いた
ゆっくりと、沙崎は目を細めて当真を見つめる
「自分が生まれ持って恵まれた天才だとでも思ってる？」
「……」
「勇は、天才なんかじゃないよ」
「……あ？」
当真の表情が一瞬だけ怒りの表情に変わった
だが、すぐにいつもの飄々とした声音に戻す
「じゃあ、YOUさんは俺が平凡だって言いてーの？」
「ん？そうじゃないよ。確かに勇は周りより狙撃上手いし、センスはある。
けど、それが努力なしで身に付けたって事じゃないでしょ？」
「はは、相変わらず鋭いなー」
「勇の手を触ったら分かるもん。今はサボってるけど入隊したばかりの時猛訓練してたでしょ」
初めは何を言っているか分からなかった
だが、理解した途端、顔が熱くなる
背後からぶっ、と誰かが吹き出す音が聞こえた
笑ったやつ、後でしばく……
「そ、ういう、YOUさんは、どうなんだよ？自分の事出来る人ー、みてえによく言うけど」
「……、努力は、努力しただけ身になる。私は自分が完璧な人間だとは思ってない」
ふわりと笑いながら沙崎は自分の掌を握り締める
どこか、悲しみを押し潰しているかのような、そんな表情をしていた
「だから、私は努力するんだよ。もう誰も失わないように。みんなを守れる力をつける為に、ね」
そういう沙崎の姿は、とてもかっこよかった
真っ直ぐと先を見ている
目標がある
俺は、何もない
はは、と笑うと沙崎は「馬鹿にしてるでしょー！」と怒りながらも笑っていた
YOUさん、俺分かったよ
あんたみたいな人を『天才』って言うんだな
ただ実力があるだけとは全く別モンって事だ
Genius=天才
fin
＿＿＿＿＿＿
Sourire
「蒼也」
あいつの声が聞こえると心がとても軽くなる
穏やかな気分になれる
肩の荷を下ろさせてくれる、優しい声
「どうしたYOU」
「んー？呼んでみただけだよー」
ふふふ、と沙崎は無邪気に笑った
同い年とは思えない程、口角を上げてにんまりと笑う
応えるように風間も微笑むと沙崎は眉を少し下げた
「蒼也はあまり笑わないよね？」
「そうか？」
「うーん。なんか、硬い感じ？」
「YOUはいつも笑っているな」
「笑顔が取り柄なんですー」
とへらへら笑う
こいつは色んな笑い方をする
心底楽しそうに笑ったり、悲しい顔をしながら笑ったり、怒りながら笑ったり
前に諏訪にこの話をしたら「全部同じ顔じゃね？」と流されてしまった
だが、見ていたら分かる。こいつが今どんな気持ちで笑っているのか
いや、それだけ俺がYOUを見ているという事か…
「そしたら洸太郎がね！禁煙しろとか言ってくるの！絶対洸太郎の方が吸ってるよね！？」
「YOUさんも結構吸ってると思うけど」
「哲次見た事ないでしょ」
「ある。前任務帰りに見かけた」
「えー！誰にもバレないように吸ってるのに！」
「あれだろ、非常口抜けた角の室外機の影」
「怖いって！なんで知ってんの！？」
「前に東さんが言ってた」
「ぐぅぅ…！！」
ラウンジに行くと、沙崎が荒船と向き合うように座り、愚痴を溢していた
机に突っ伏したかと思うと顔を上げてまた微笑む
それを見た荒船も呆れるように笑った
「あ、蒼也」
「風間さん。こんにちは」
「あぁ」
「もう、蒼也も聞いてよー！洸太郎がさぁ！」
「聞こえていた。煙草だろう？諏訪もYOUもお互い禁煙しろ」
「無理無理ー。蒼也の身長が170cm超えるくらい無理ー」」
「ほう…？いい度胸だなYOU。今日は野宿でもするか？」
「わー！ごめんなさい！！」
その様子にくすくすと荒船が笑う
むぅ、と頬を膨らませた沙崎が荒船を見た
「哲次、馬鹿にしてるでしょー」
「してねぇよ。YOUさんが本部に来てる時は賑やかだと思っただけだ」
「へへ。人気者は辛いね」
「それは違うだろ」
「あ、YOUさん」
「あ、悠一！今日は玉狛じゃないんだね」
「うん、城戸さんに用があってね」
YOUの周りには、人が集まる
それも、きっとあの笑顔の引き寄せられるんだ
俺は……あいつの笑顔以外の表情は見たくない
見たく、ないんだよ
「こうたろう…、そうや……。ごめんね…私……」
そのまま沙崎は気を失って倒れこむ
頭が真っ白になり、呆然としていると諏訪が急いで沙崎の身体を抱える
濃緑の袖が真っ赤に染まっていく
俺が…、倒せと、指示を出したからか…？
俺が、YOUを………＿＿＿
沙崎の顔は青白く、また苦痛で眉根に皺を寄せている
病院に搬送され、一命は取り留めたようだったが、１週間経っても目を覚まさない
俺は、会いに行けなかった
会わせる顔が無かったんだ
「風間さんって嫌な事とか根に持つタイプですか？」
「……今その話は関係ないだろう」
「んー？いや、確かに関係っちゃ関係ないでしょうけどー。俺はそん時敵なら仕方ないと思いますよ。
あ、ランク戦と思えば」
「俺が、殺そうとしたんだ。あいつを」
「……」
反対側に座っていた出水が飲み物を啜る
ふう、と一息付いてはにかむ
「本人はそんな事気にして無さそうっすけどねー」
「何…？」
「目を覚ましたらしいっすよ、昨日。んで、早速本部に来てましたー……って、もう居ねえし」
出水からその事を聞くと急いでラウンジを出た
早く、会いたい
あんなにも会いに行けないなどと言っていた自分を押し退けて探し回った
会って、そして、謝りたい
「ーーー、YOU！」
「わっ！蒼也じゃん。いきなり大きな声出してどうしたのー？」
ふわり、といつもの穏やかな笑顔を向ける
やっぱり、こいつの笑顔は凄い
全て、忘れさせてくれるような、優しくて…
...
頭の奥で、誰かの泣く声が聞こえる
悲鳴のような、喉が張り裂けそうな程叫んでいる
これは、俺の声か…？
悲しみからか頭が混乱して平静を保てない
ただ、ただ、泣き叫び、幾つもの涙を流し続けた
涙が枯れても、叫びは収まらない
頼む、笑ってくれ
目が覚めた日からお前が悲しみや苦しみを押し殺して笑っていたのは知っている
けど、俺はお前の笑顔が好きで
どんな笑顔でも大好きで
だからこそ、そばに居て、その笑顔を自分に向けて貰いたかったんだ
だから、頼む
「目を、目を……開けてくれよ……っ、YOU……っ」
…
「風間」
「諏訪か。どうした」
「ん？いや、この前の写真現像出来たから渡そうと思ってよ」
「写真？……あぁ、あれか」
「おう。んじゃ、荒船とかにも渡さねえといけねえし」
「あぁ。わざわざすまないな」
諏訪と別れ、その写真を見て、ふっ……と笑う
「馬鹿みたいな笑い方だな」
その沙崎の表情は目に涙を溜めながらも精一杯微笑んでいた
この時、沙崎は自分の未来が分かっていたのだろう
だから、写真を撮ろうと言い出したのだ
その周りを見ると、みな嬉しそうに笑っている姿が映っていた
風間も、少しぎこちないが笑顔を作っている
『私、蒼也の笑ってる顔好きだよ！いつもむってしてるから余計にね！』
そんな言葉を思い出して再度写真を見つめる
目を細めて写真を撫でる
「俺も、お前の笑顔が大好きだったぞ。YOU」
もう、その笑顔はこの写真でしか見れない
だが、覚えている
あいつの表情、声、全てだ
容易く思い出せる
それくらい、あいつが好きだったから
Sourire=笑顔
fin
＿＿＿＿＿＿
Ahead
「悪いなYOU。遅くなっちまった」
静かな峠に諏訪の声が微かに響き、虚しく消える
手に持った花を添えてその横にビールと好物のチーズを置き、吸っていた煙草をそのまま添えた
顔を上げて名前の掘られた石を撫でる
「この墓、ボーダーの人らみんなで金出し合ったんだぜ？本当は俺ら３人でって話だったんだけどよ、いつのまにか話が漏れててよ…」
くっくっ、と笑った後に目を細めて墓を撫で続ける
「俺さ、お前と初めて会った時『何でこんな奴と馴れ合わなきゃなんねーんだ』とか思っててよ。
お前も同じ事思ってたかもしんねえけどさ。けど、今はお前と出会ってて良かったと思ってる。
いい歳してんのに馬鹿みたいにふざけたり、笑ったりして。それがすっげえ楽しかった。
やっぱお前は凄えよな。けど、たまには弱音も吐いてもよかったんだぜ？
お前なんでも１人で溜め込む癖があっから」
その言葉が沙崎に届かないと、分かっていたとしても諏訪は話すのを止めなかった
ここで止めてしまったらもう、２度とそれは口に出せなくなるような気がしていたから＿＿＿
「そういや俺さ、来年からエンジニアに移ろうと思ってんだよ。
諏訪隊が解散になんのは寂しいけど、やりたい事が見つかったんだ。
堤とかに言ったら背中押してくれたよ。それをお前にも伝えとかなきゃいけねえと思ってさ」
立ち上がって、空を仰ぐ
日が沈みそうな空は橙色と紺色が混ざり合った色をしていた
目を凝らすと微かに星も見える
「お前のトリガーを改良して、別の奴が使えるようにする。
もう使えなくなんのは勿体ねえだろ」
嫌味を言うかのように笑ってから、表情を戻して１度息を吐く
「そのトリガー、荒船に使わせてやろうと思ってな。
あいつ木崎みたいなオールラウンダー目指してるらしいから。
お前も、それでいいか？」
その問いに、勿論返事はない
墓に添えていた消えかかっている煙草をもう一度咥える
そのまま背を向けて歩き出す
『哲次になら、使って貰ってもいいかな〜』
ぴたり、と足を止めて振り返る
その途端強い風が吹き、煙草を落とす
あの皮肉な声が、聞こえた気がした
いや、気の所為か……
諏訪はその煙草を拾い、その場を去っていく
『………、またね、洸太郎。ありがとう。…大好きだったよ』
その声はまた風と共に静かに消えていった
Ahead=その先
fin
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ワートリ大好き - 荒船さん風間さん諏訪さん村上さんの四人とかマジ泣けました荒船さん最後の歯車は動きだすでしたか？すみません私記憶力0ですでもかっこよかったです (2017年2月11日 20時) (
レス) id: ccac1e297a (このIDを非表示/違反報告)
ワートリ大好き - 終わってからすごいたってますけど全て読めました物凄い泣けた現にDsに涙が落ちて跡がついてる。このを見て作品何回泣いたかなぁ(五回以上) (2017年2月11日 20時) (レス) id: ccac1e297a (このIDを非表示/違反報告)
玲桜(プロフ) - か、完結おめでとうございます！｡･ﾟ･(ﾉД`)･ﾟ･｡すっごい泣けました！死ネタ入っている作品はあんまり好きではなかったんですが、この作品はサクサク読めて、もう（泣）ありがとうございましたあああああ｡･ﾟ･(ﾉД`)･ﾟ･｡これからも頑張ってください！ (2015年12月27日 17時) (レス) id: a4f111efdf (このIDを非表示/違反報告)
燕 - 完結おめでとうございます…！ この作品はめちゃくちゃ好きで、感動する話で泣けました…これからも頑張って下さい！ (2015年9月9日 9時) (レス) id: d01b0ff04d (このIDを非表示/違反報告)
りんりん(プロフ) - 完結おめでとうございます。この作品がすごく好きで、作者様の愛が感じられました。これからも頑張ってください！ (2015年9月6日 20時) (レス) id: c15a2e9383 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：伊紗 | 作成日時：2015年9月6日 20時
