頑張る理由

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:367 hit

主将ちゃん目線です

頑張る理由

「水分補給ー」
「はいっ」

私が大声で言うと、やっていた練習をやめてみんな水筒を手にする。

体育館は風が無いから熱がこもってとてつもなく暑い。タオルだけじゃ追いつかない。

「あ"っつーいいい」

体育館から出ると、すぐそこは外。そよそよと涼しい風が吹いている。

「あー、生きかえる」

大きく伸びをする。
グラウンドからは野球部の活動している音。外の部活も大変だなと、照りつける太陽を見て思う。

目を閉じれば太陽の光、風、部活動の音。
そして聞こえてくる会話。

「とーる、今日試合なの？」
「ごめんねー、前から決まっててさ。今日何か大事な用あった？」

確か男バレは今日は練習試合なんだっけ。
及川の彼女が来ているのか。

「今日私の誕生日なんだよー？」
「え、ふみちゃんの誕生日って今日だっけ？」

ふみちゃんって呼ぶんだ。私のことは、ゴリラなのに。

「だからとーると遊ぼうって思ってたのに試合なんだもん。その様子だと誕プレも無し？」
「ごめんね」

声のする方へ近づいてみる。隠れるにはちょうど良い太さの木があったから、そこに隠れて覗き見る。

ユニフォーム姿の及川と、制服姿の彼女がいた。

「しょーがないから、誕プレは勝利の報告で良いよ。私の誕生日なんだから、絶対勝ってよね」

本人はうまいことを言っているつもりなのかも
しれないけど、聞いてて呆れてしまう。
及川はどう思ったか知らないし、私からは表情がよく見えない。

しばらくの間のあと、「ふみちゃんのために勝つよ」と及川が言った。

約束よ、とふみちゃんが言って、及川より先に男バレの使う体育館に向かう。
及川はその後ろ姿を、ただジッと見ている。

「あんたも戻った方が良いんじゃないの」

木から出てそう言うと、及川は「お」と笑顔を浮かべて私を見た。

「なになになにー、及川さんの心配してくれてんの？優しー」
「バカ、あんたが戻んないと試合始まんないでしょ。迷惑」
「あ、試合。約束したし、頑張んないとねー」

そう言う及川は笑っているけど。
ね、あんた、心の底から笑ってる？

「頑張んのは全然悪くないけど。でも頑張る理由は間違えちゃダメだよ」
「何をいきなり」
「勝ちたいから頑張ってんでしょ。勝ちたいから辛いこともやってきたんでしょ。なのになんで彼女のために頑張んのよ」

あんたのやっていることは、誰かへのプレゼントになるほど安くない。
頑張る理由が、そんなくだらないもので良いはずがない。

強くなりたいんでしょう、勝ちたいんでしょう、バレーしたいんでしょう。

やめてよ、あんたの努力の結晶を、勝利を、プレゼントなんかにしないでよ。

「勝った時の、みんなと喜んでる時のあんたの顔が、見たい奴だっていんのよ。みんなで掴んだ勝利をあげられるわけないでしょ、それよりそっちの方がプレゼントになるわよ」

だって、その時の及川の顔は、世界で一番輝いている。
そしてその笑顔を見られるのは、バレーで勝った時だけなんだ。

「勝つために頑張りなさいよ、バカ」

言っておきながら、恥ずかしくなる。
私練習だから、と踵を返す。

及川が後ろで何か言っているけれど、知るもんか。
今の私は絶対に顔が赤い。
見られたくない。

及川にあんな偉そうなことを言った手前。

私も勝つために頑張らないと。

ホムペを作る｜感想を書く
 他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って！｜面白い！→ )