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  ____東北地方に在る、とある有名な喫茶店。気侭に開くその木製の扉を潜れば古惚けた硝子が擦れる音と共に眼前に広がる、店員達のセピア色の笑顔____

___若い笑い声と共に出される珈琲は日によって異なり、一度飲めばその味を一生忘れることは不可能だと噂されるほど絶品らしい____

____まったりと心を休められるその空間は、まるで、喫茶店の時間が進んでいないような、不思議な気持ちになれる。そんな不思議な喫茶店の店員達が繰り広げる『風ぐるま』の日常___


この忙しい世間に疲れたなら、一寸ここで一息でも、如何でしょう。

ゆるゆるとした日常へ、ご案内。





第一話喫茶・風くるまの日常一
第二話喫茶・風くるまの日常二
第三話喫茶・風くるまの日常三
φ(゜゜)ノ゜<<駄文。


 「皆酷くないですか? 俺ばっかり動いて」

 そう言って田中は少量の酒を口に含んだ。

 「悪かったってー。さっきからそればっかじゃん。いい加減機嫌直せよ田中」

 「小っせぇことをうじうじと、五月蝿ぇよ」

 「こら、越前くんは相変わらず言葉が汚いですよ」

 「その喋り方ヤメロ女々しいな」

 越前はこめかみに青筋が浮かんだ顔で坂田を睨み付けた。それに慣れているのか、はたまた酔いが回っているせいか坂田はへらへらと薄気味悪い顔で聞いている。

 此処は田中達が働いている喫茶店から大通りに出て左に曲がり、少し歩いた所にある年老いた夫婦と一人の若い青年が営んでいる居酒屋である。

 今日は桃子を除いた全従業員が、新人アルバイト生の三ヶ月祝いと称して酒呑みたさに集ったのだが、神田が面白半分で弱い田中に酒を呑ませた結果、三週間程前の重労働について愚痴を聞かされる羽目になってしまった。

 「まあまあ田中。そこら辺にしといてやれ」

 「でもさぁ志村。最近なんか俺に対する皆の扱いが酷くなってる気がする」

 「だからごめんって! さっきから謝ってんじゃん」

 「それほど田中くんは傷ついたんだよ神田くん。ほら、もっと謝って?」

 「坂田さんまで!」

 「そうね、私もバーコードさんの意見に賛成よ。開会式さん、床に額をくっつけて謝ってさしあげたら?」

 「桃花ちゃんもー! 俺だけじゃないじゃん。桃花ちゃんもじゃん」

 「あら、そうだったかしら?」

 桃花がフイッと顔を背けカシスオレンジを呑んだのを見ると、神田は越前の腕に引っ付き、

 「越前ちゃん。桃花ちゃんが俺に酷いことを言ってくるー。理不尽だ!」

 と喚いた。

 「ちょ、おい、引っ付くなよ! そしてちゃん付けはヤメロ!」

 「えー酷ぇ」

 「……こりゃあ後始末が大変そうだな。ほら田中、大丈夫か?」

 「志村……? 嗚呼、大丈夫じゃない」

 「本当に田中は酒に弱いな。酔い止めは持ってるか?」

 「持ってない。今日いきなり神田さんが言い始めたんだぞ。持ってるわけないだろ」

 「だよなぁ。すみません俺、田中連れて一寸外出てきます」

 「うん。行ってらっしゃーい」

 「ほら田中。立て」

 「無理。気持ち悪い」

 渋る田中をなんとか立たせ、志村は暖簾を潜った。

 外はもう真っ暗になっていて、街灯や大型スーパーの電飾が異様に明るく感じた。空には満天の星が浮かんでおり、キラキラと宝石にも敗けない煌めきを放っている。

 「外の空気は美味いな」

 「嗚呼、そうだな」

 「どうだ? 田中。体調は」

 「うーん……まあ程よく良くなったし、戻ろうかな。弘津さんが少し席を外してる今、俺達が居ないとカオスになってそう」

 「てか、程よくってなんだよ」

 「俺語だよ俺語」

 二人が居酒屋に戻ってみると案の定そこは酔っ払い達の独壇場になっていて、中島は目に涙を溜めながら震え、桃花は額に青筋を立てながら机をトントンと叩いていた。

 「あらお二人とも。風船さんの体調は良くなったのかしら?」

 「ああうん、まあね。そっちは……大変みたいだね」

 田中は先程まで居た自分の席に頬赤く染めて寝っ転がっている神田を見ながら苦笑いをした。それを見た桃花が田中の脛を思いっきり蹴った。「痛いっ」という声を上げて蹲った。

 「何笑ってんのよ。こっちは大変だったんだから! なんでこのヘタレちゃんと一緒に酔っ払い共を見なくちゃいけないのよ。これじゃあお酒が不味くなるわ」

 「桃花ちゃんはお酒の味が分かるほどの年だったけ?」

 「シムさんって見た目より失礼なことを言うのね。まあ確かに貴方の言う事も一理あるけど」

 「そう?」

 志村は肩を竦めながらテーブルの上を片付け始めた。テーブルの上はビールを零した滴やらおつまみの汚い破片やらで汚れている。

 「あ、あの……」

 キャンキャンと吠えていた桃花と田中の間に小さな声が割って入って来た。二人が同時に声がかかってきた方向を見た。

 「あの、ぼ、僕は如何すればいいんですか? 皆さん結構泥酔して寝てますけど」

 「ああ。中島、君?」

 田中がその名前を呼ぶと、中島は「え、ああはいそうです」と下を向いた。

 「そっか。ごめんねこんなことになっちゃって。まだ三ヶ月なのにこんなの見せちゃって」

 「いえ、そんなことないです。僕なんかより、桃花さんの方が……」と中島がちらりと桃花の方を見た。

 「え?」田中が分からない、という風に首を傾げた瞬間、桃花の顔は真っ赤に染まりガタッと勢いよく立った。

 「何言ってんのよ! 別に私はそんなつもりはないわ!」

 「えっと……と、桃花ちゃん? 一旦落ち着いて。ほら、ここ居酒屋だから」

 田中が桃花を見上げながら言うと、桃花はその真っ赤に染まった顔で田中を睨みながら音をたてて座った。田中は桃花に睨まれたまま動けず、只々冷や汗をかきながら口元に余裕のない笑みを浮かべ、桃花の瞳には鋭い光が宿っている。

 これが蛇に睨まれた蛙と言うのか、と志村は思った。

 「分かっているわよ。言っとくけど!」桃花の怒りの矛先は中島に向いた。自分より小さい女性に大声で怒鳴られ、ヒイッと頼りなさ過ぎる悲鳴を溢した。

 「私はそんなつもりじゃなくってよ。いい? 勘違いアルバイトさん。別にあの人のことは、只の頼りになる少し格好いい先輩に過ぎないの。私も音大を卒業したら風ぐるまも辞めるつもりだし」

 「そ、そうだったんですか?」

 「そうよ。新人のくせにそういうデリケートな部分に首を突っ込まないでくれる?」

  「す、すみません……」

 ここまでの会話で、田中はやっと気がついた。

 中島が言っていたことは、桃花の絶賛片想い中の相手である越前のことだ。

 越前は神田と坂田と一緒に泥酔している。普段はあまり酔わない越前であったが、今日は祝いだということで神田に大量の度が強い酒をしこたま飲まされた結果、二人に少し出遅れて酔いが回り、寝てしまったのである。

 神田が飲まさなければ、二人の仲は良い方向に向かっていた。

 「志村、志村」

 「何だ?」

 田中が小さい声で志村を呼ぶと、彼も田中につられて小さい声で答えた。

 「桃花ちゃん達が言ってることって、越前さんのことだよね」

 「嗚呼。桃花ちゃんが飲みに行くって珍しいと思ってたんだが、真逆越前さん狙いだったとはな」

 「青春だね」

 「青春だな」

 「ねぇ、お二方」

 二人は聞いたことのある声にビクリと体を震わせ、声の主をゆっくりと見た。

 「こそこそと秘密話なんて、趣味がいいのね」

 「あ、いや、そのぉ……」

 「本当に貴方達って最低!」

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作者名:一介の爬虫類 | 作成日時:2017年9月15日 22時

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