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『昨夜、東京都連続殺人事件で知られる
一ツ橋勝死刑囚の死刑が執行されました。』

それはあまりに唐突な訃報で、それを見て僕は肉じゃがの人参を皿の中に落とした。

前の職場が改装工事のため暫く休みと聞いて
いた僕は前の勤め先に戻ってそろそろ１ヶ月、いきなり飛んだ僕を優しく迎え入れてくれた
専務の優しさに心打たれていたのも束の間の
悲報だった。

僕はスマホを取り出し、僕を知ってる人たちに連絡することにした。


『はい、ゆきくん久しぶり。』

「うん、久しぶり、たつくん。」

電話相手の彼であるたつくん━三隅達規は
あいも変わらず単調だ。

「今何してたー？」

『店の仕込み終わってひと段落ってとこ
かな。』

「あっ、自分のお店持ったって言ってた
もんね！なんだっけ…あのー、ぱ」

『passing（パッシング）な。』

「そーそれそれ！」

彼は忘却の彼方にあったその名をすっぱりと
教えてくれた。そういったところはまんま
当時の彼である。

「同じ現場だった時さー、作ってくれた
じゃん、すりこぎみたいな名前のやつ。」

『それプルコギ。』

「そうそれ！アレめっちゃうまかったから
今度遊びに行くね！」

『…今日じゃないんだ。』

「僕今日、あるからさ。」

『…そっか。』

「でさー、奥さんとあんなことやこんなこと、したの？」

『ばっ！』

言うんじゃない！と言いたげな彼の焦った声はこのまま止まってしまった。奥さんは依頼で
助けた時に出会ったそうで、下宿時代にはほぼ毎日顔を合わせていた。パインブロンドの髪がよく似合う可憐なお嬢様、それが僕の中の
彼女だ。

「あ、でもお店忙しいんだっけ。ごめん、変なこと聞いて！」

『お前、ホストならそんくらいちゃんと
しろよな。もう用ないなら切るけど。』

「あ、あのさ！ボス…処刑…されたんだけど…何か知ってる？」

『知らないよ。第一、足を洗った人間なのに
まだ言われなきゃいけないの？』

「…そうだよね、ごめんね。」と僕は通話終了ボタンを押した。


『もしもし。ああ、ユキか。』

「うん。久しぶり、豊。」

彼─五ケ山豊もたつくんと同じく単調だ。
それも、酷く冷たい。

「最近『occoa』はどうなの？」

『酒の注文がやっぱり増えた。あと美羽…
あっ、家内が料理振舞っててそれ頼む奴も
いる。』

「そんな無理して『家内』なんて言わなくて
いいよ！美羽ちゃん元気？」

『ああ。最近じゃ記者の方も忙しくなった
らしい。体だけには気をつけてほしいところ
だが。』

彼が美羽ちゃんと出会ったのは、彼女が僕らを追ってきたことから始まった。

僕は気づかなかったけど豊はすぐに気づいた
みたい。鼻がよく効いて、勘も鋭いから
タジタジになっていたのはいい思い出。

「あ、あのさ！ボスについて
…何か知らない？」

『処刑されたのは知ってる。だから止めよう
って言ったんだけど。』

「…言ったの？」

『いつかは終わりがくるからこのタイミングでって話をしたんだけどね…』

そのタイミングで通話は終わってしまった。


『…ぁーい。』

「こないだぶりだね、俊くん。」

俊くん─如月俊介はどうにも眠そうにして
いる。

「俊くんは、あのあとどうしたの？」

『ちゃんと警察戻って、昨日夜勤だった
とこだ。』

「え⁈警察って出戻りあるの⁈だって
僕らは…」

『今回は特別らしい。ま、一応丸め込まれた
被害者って扱いらしいしな。』

「そ、そっか。でさ、お金ありがとう！どこに返せばいい？大体３桁万円くらいだったと
思うんだけど！」

『返すもなにも、ボスはもういねぇだろ。俺は仲介しただけ。』

俊くんは何度も欠伸をしている。朝型の彼に
とっては気怠くて仕方ないと思う、でも。

「僕、ボスの話、まだ出していないよね。
警察でしょ、何か知ってる？」

『知ってるってか、ニュースでやってたろ。
それが全部だ。』

「絶対嘘！警察に出戻り出来たのって」

僕は一拍おいて言った。

「ボスを…売ったからでしょ？」

『…そう思うなら一生そう思ってろよ。
俺、やんなくちゃいけないことがあるから
切るな。』

「そのやんなくちゃいけないことって
なんなのさ！」

『…ボスの始末書だよ。』

彼は電話を切った。