甘いチョコと一蓮托生【オリジナル】

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:58 hit

遅れすぎたバレンタイン企画です…(汗)

ほかの作品の更新頻度は3月から少しずつですが上げていきたいと思っております。

更新をお待ちの読者様には本当に申し訳ないですが、この企画をバレンタインの感謝の気持ちのチョコとして受け取って頂きたいのです。

※仄かに過激描写がありますが、読者の察する能力を見込み、更にぼかして執筆しましたので、御安心ください!!
※この作品に出てくるものは全てフィクションです

作成日平成31年2月22日
━━━━━━━━━━━━━━━

「ねぇ、本当に大丈夫なのかしら？」

女性は不安そうに向かい合って佇む人を見上げた。
シンシンと牡丹雪が彼等の元へと舞い落ちる

「大丈夫さ、本にもそう書いてあった。
昔から書籍として残っている本は本当に参考になる。
…多くの文献にも書いてあったし、大丈夫さ」

付け足すように言ったその人の言葉に彼女は安堵の溜息を一つ吐いた。

彼等の周りは一面銀の世界

彼等の足跡以外は誰も

その場所に踏み入れてはいない

「綺麗ね、まるで穢れを知らない無垢の色みたいだわ…」

「白無垢を…本当は君に着せたかったんだけどね」

うっとりと自分達が辿ってきた足跡を新たに舞い降りた雪が隠す。
苦笑いをして彼女の頬を撫でた相手の行動に彼女は寒さで震える頬を赤らめた。

「…本当に君は後悔しないかい？
君には輝かしい未来も、結婚を約束した相手だっていたじゃないか。
私の為にそんな…」

そんな彼女に対して相手であるその人は「今なら戻れる」と言わんばかりの声色で念を押すように話した。
しかし、話の最後には弱々しい、蚊の鳴く声で言い淀んだ。

「私は両親のご機嫌取りのお人形さんはもう辞めたのよ。結婚を約束なんて私はしていないわ。
私は…貴方と生涯を共にしたいのよ。

例えそれが叶わなかったとしても…」

そんな相手に心外だと言わんばかりに彼女は捲し立てた。
しかし、彼女も最後には自身にも言い聞かせるように胸元に手を当て、ギュッと力強く服を握りしめた。

彼女の言葉に弾かれた様に、その人は彼女を力一杯抱き締めた。
どちらともなく唇を重ねる。

「…ねぇ、これを知っていらっしゃる？」

「…これは？」

包装用紙から取り出した茶色の何かが、彼等の周りを甘い匂いで包み込んだ。

「貯古齢糖(チョコレート)と呼ばれる異国のお菓子なんですって。
でもね、犬や猫が食べると死に至るそうよ」

「死に至る…ね」

感慨深そうに何度か頷き、懐から先程話に上がっていたであろう本を懐から取り出すと、挟んであった栞を取り出した。

「…！このお花は」

「この花の花言葉は、とても魅力的だとは思わないかい？」

その栞は押し花であった。
そして、彼女にもその花は見覚えがあったのである。
筒状で先が膨らみ、上が丸く膨らんだ花を初夏につける。また、その基部は横に出てすぐに上を向いて曲がる。その先端はまた水平に開き、そのような花が穂状に多数付き、同じ方向に向いて花を咲かせる姿が波頭の文様を思わせるその花の名は

「確か、このお花の名前は…」

「「立浪草(タツミナソウ)」」

声を揃えて言われたその花の栞は何年も使われているからか色が褪せて少しクタリと萎びれていた。

その人はその栞を大事そうに掌へと収めると、彼女の方を見つめた。
彼女は彼女で、口に貯古齢糖(チョコレート)を含むと、その人の掌を包む。

そして、彼等は再度唇を重ねた。
それは次第に激しくなり、彼等の舌を行き来する様に貯古齢糖(チョコレート)が消えてゆく。

しかし、彼等は消えた事に気付かない程、その行為に溺れていた。

「…ふぁ…ん」
「…ん」

舌と舌が互いに生々しくも絡み合うその行為は彼等の頭が白くなるほど長く続いた。

「ん、そろそろだね」

「はぁ…そうね」

甘い甘い口当たりのその行為が終わると、彼等はふと、自分達が歩いてきた道を見つめた。

足跡は彼等が立っている場所以外、すべて、雪に覆われてしまっていた。

「…ねぇ、私達本当に死ねるのかしら」

ポツリと零した彼女の言葉に応えるべく、その人は口を動かした。
口の中は貯古齢糖(チョコレート)の甘味で甘ったるい程に苦しい。けれど、それも自分達の愛の形なのだと思えば、どうと言う事は無い。

「さぁ…でも私は、互いに傷つけ合うことも、どちらかが先に他の場所で死ぬなんて反吐が出るくらい嫌だよ」

「そうね、その通りだわ。
このまま、私達は私達の熱が冷めたとしても…心は熱いままだもの」

彼等はまた、互いの熱を絡め合い、奪い、そして同化してゆく。

その心は清らかなる雪のように儚く、そして、圧迫されやすい心そのものであった。

雪が溶けた春先、彼等は見つかった。
寒空に晒されたその肌は雪のように白く、冷たい。
互いに両の手を繋ぎあい、微笑みあって座るその姿はまさに『芸術』の様に美しく、見つけた者からすれば脅威的であった。

彼女たち(・・)は苦しい世界から逃れ、幸せに暮らしているのだろうか…。
それとも、生まれ変わり新しい人生を歩んでいるのだろうか…。

彼女達の死亡推定時は、後世ではバレンタインデーと持て囃される日であったという。

ホムペを作る｜感想を書く
 他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って！｜面白い！→ )