夢の中で一度だけ出会った金髪三つ編みの女の子

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「サーヴァント・ルーラー。ジャンヌ・ダルク。お会いできて本当によかった！」

目を見開いた。

YOUには覚えがあった。

一度だけ、夢の中に現れた少女であると。

そのあと何故かその少女の格好を自身が纏っていたために印象に残っていたが正しいだろう。

少女は嬉しそうに笑うとYOUの両手を、自身の両手で包み込むように握った。

「こうして貴女のサーヴァントとして喚んでいただけるだなんて、夢のようです」
「えっと……」
「もしかして、覚えていないのでしょうか」

打って変わって悲しそうな表情をする少女にYOUは慌てて首を横に振り、覚えていることを伝えた。

「よかった。一度だけ、それも僅かな時間だけでしたので、覚えておられないかもと不安を抱いていたのです」

安堵した少女は改めてよろしくとYOUに言う。

「よ、よろしくお願いいたします？」

たがYOUは非常に戸惑っていた。

まず何故夢の中の人物がここにいるのか。

ルーラーというクラスとは何なのか。

何故自分の名前を知っているのか。

次から次に湧き出てくる疑問にYOUは困惑の眼差しを目の前の少女に向けた。

「YOUが疑問に思っていることは可能な限りお答えいたします。ですが、まず私の話を聞いていただけませんか？」
「……わかり、ました」

ひとまず自身が感じる疑念を脇に置き、少女の話を聞くことにする。

少女曰く、今回の聖杯戦争も様子が可笑しいらしい。

なんでも聖杯が今回も汚れていると。

「汚れている？」
「はい」

本来であれば聖杯戦争は六十年という長い周期を掛けて冷却され、そして再度目覚める。

だが、今回は十年しか経っていない。

それは十年前の聖杯戦争で聖杯がそこまで魔力を消費しなかったのが理由だが、それ以上にその魔力が負のものであることが問題だ。

もしその負の魔力が溜まった聖杯が再び起動し、誰かがその魔力を使ったとしたら。

「十年前の比ではない程の被害が出てしまいます」
「……」
「YOU、お願いがあります。貴女のことは私が全力でお守りいたします。だからどうか私と共に今回の聖杯戦争を止めるため、一緒に戦っていただけませんか」

真摯な目で、確りと少女は目の前のYOUを見据えた。

ルーラーとして現界したが、特殊なケースのためか聖杯からの魔力供給は期待できない。

そのため少女が現界し続けるにはマスターであるYOUの協力が必要であった。

「……」

YOUは考えた。

少女の言うことは半分不確かで半分事実に近い。

十年前のあの時、YOUは確かに空に浮かぶ黒いナニカを見て恐怖したのだから。

そしてその恐怖はまるで伝染するかのように黒い泥となって新都を燃やし、住民に多大なる被害をもたらした。

「私は戦えませんし魔術師としての腕は三流です」
「はい、知っております。ですがYOUの結界魔術は無敵です」
「……無敵ではないです。それでも良いのでしたら、私に出来ることがあるのでしたら、お手伝いいたします」

聖杯戦争を止めるという大それたことをすれば、途中で命を落とすかもしれない。

YOUの言った通りYOUの結界魔術は無敵ではない。

特殊な魔術を使うものであれば破ることもできる。

だがまたあのような悲しい事態になるのはYOUにとって本意ではないのだ。

「ありがとうございますYOU！　この旗に誓って、私は貴女を絶対お守りいたします」

満面の笑みを浮かべた少女に、YOUもここでようやく笑みを見せた。

「改めて、ルーラーのサーヴァント。真名をジャンヌ・ダルク。よろしくお願いしますねYOU」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。知られているようですけどYOU・エルメロイ・アーチボルトです」

手を差し出せば応えてくれた少女に、改めてYOUは質問をした。

「どうして私のお名前を知っていたのですか？」
「それは貴女と私には縁があるからですよYOU」
「縁？」
「はい」

フランスの聖女であるジャンヌ・ダルクとの縁とは何だろうか。

YOUは生粋のブリティッシュ、フレンチではない。

もちろん聖女縁(ゆかり)の粗品を持っているわけでもない。

もし所持していれば歴史的に重要な品として十中八九時計塔に没収されているに違いない。

悩むYOUに対し少女はクスクスと上品に笑うと、きっとわからないと思いますと言うではないか。

「血縁関係という訳ではないのですか？」
「はい、どちらかというと私と貴女は」

というところで少女は言葉を止めた。

どうしたのかと小首を傾げると背後から扉が開く音がした。

後ろを振り向けばYOUの兄であるケイネスが自身の魔術礼装と共に入室していたではないか。

「……」
「あ、兄様！」

元気そうな妹に、取り越し苦労であったことに大きく溜め息を吐いたケイネスは水銀を試験管に戻した。

「遅いので魔力切れでてっきり倒れていると踏んだのだが、まさか召喚したサーヴァントと楽しげに会話をしているとは思ってもみなかったよYOU」
「あ、申し訳ありません……」
「それに、まさか十年前のあの時の聖女を召喚しているとは」
「お久しぶりです、YOUの兄君」

不機嫌そうなケイネスに対し、少女は座りながらも頭を下げた。

「どのような縁で我が妹の召喚に応じたのかは知らないが、くれぐれも十年前のように攻撃した直後に昏倒するということはないようにしてくれたまえよ。オルレアンの聖女」
「はい、それはもちろん。重々承知しております」
「ならばよろしい。YOU、報告は夕方に聞く。それまでは回復に当てがうように」
「はい、兄様」

頷いたケイネスは少女を一瞥したのち部屋を出た。

その背を不思議そうな表情で見送ったYOUはぽつりと呟く。

「何故兄様は貴女の真名がわかったのでしょうか」
「一度だけ、十年前にお会いしたことがあるのですよYOU」

なるほど、と理解していないような回答をYOUは返した。

(？？？の場合end)

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