帽子を被った非常に見覚えのある金髪の少女

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「……コードネームはヒロインX。昨今、社会的な問題となっているセイバー増加に対応するために召喚されたサーヴァントです。よろしくお願いいたします」
「え……」

召喚に応じたサーヴァントは、十年前にセイバークラスで現界した騎士王。

……に非常によく似た少女である。

「セイバー？」
「！　流石私のマスターで。私の本来の適正クラスを言い当てるとはなかなかの慧眼の持ち主ですね」

ふふんと笑った少女は格好や髪型こそ違うものの、顔立ちや声はあの時のセイバーである。

しかし何処か違う。

「えっと、真名は……？」
「ヒロインXです」
「……」

もう何がなんだか……。

更に言えば先程彼女は本来の適正クラスはセイバーだと言っていた。

ということは今のクラスはセイバーではなく別のクラス。

騎士王、アーサー王がセイバー以外で現界可能なクラスはランサーとライダーぐらいだろう。

「それよりもマスター、貴女の名前を教えてください」
「！　失礼しました。私はYOU・エルメロイ・アーチボルトです」
「YOU……、良い名前ですね」

そう笑ったサーヴァントの表情はやはり騎士王であった。

　

　

　

「セイバーを発見。業務的に処理をします」

そう言って、最早双子かと思うくらいそっくりな人物に駆け出す彼女にYOUは慌てて止めに入った。

ことは少し遡る。

自身が召喚したサーヴァントのクラスがアサシンであることを知れたYOU。

霊体化が出来ないとアサシンに兄であるケイネスに頼んで二人分の飛行機の席を取り、日本の冬木市に到着出来た。

余談であるがアサシンを見た時の反応が非常にYOUとそっくりだったことは血の繋がりゆえだろう。

到着後しばらくは悠々自適に、物凄く食費がかかることはイギリスで学習済みのため毎日バイキングや食べ放題に行っている、過ごしていればある日のお昼にセイバーの気配がすると言ってYOUを連れて街を駆け出していったのだ。

そして閑静な住宅街の日本屋敷のようなお家のインターフォンを鳴らし、現れた非常に見覚えのある少女を見た途端に冒頭の言葉を吐き、斬りかかったのである。

「な、何故私がもう一人!?」
「ここであったが百年目！　尋常に大人しく私に倒されなさい！」

玄関口で非常に激しい剣撃を繰り広げる二人にどうするかと悩んでいれば、少年が戸惑ったような声で二人に声を掛けていた。

「ま、待ってくれ！　此処は玄関だ！　戦うのは止(よ)してくれ！」
「そ、そうです！　彼の言う通りです！　ですので止まってくださいアサシン！　一週間ご飯抜きにいたしますよ！」

ピタリと止まったアサシン。

その顔には苦悶の感情を浮かべた。

「私には私以外のセイバーをブッ飛ばすという使命が……いやでも食事は私の生命維持に必要な事だし……YOUが連れて行ってくれる場所はいくら食べても怒られないところだし……でも目の前にセイバーが……でもご飯……」

どうやら使命と欲求の狭間で揺れ動いているようだ。

今の内にとセイバーを避難させてと少年に言えば戸惑ったようにセイバーを呼び寄せた。

「大丈夫でしたかセイバー？」
「……えぇ。助かりましたYOU」

傍らではどうするかと悩むアサシンが膝を着き、悲痛そうな唸り声をあげていることを尻目で見つつYOUはセイバーに声をかけた。

「まさか、また貴女にお会い出来るとは思ってもみませんでした」
「私も、今回の聖杯戦争でセイバーの貴女に会えるとは思ってもいなかったです」

お互い思いもしない再開に、少年は自身のサーヴァントに知り合いかと問いに対しセイバーは頷いた。

ここではということでYOUと、未だ決断し切れていないアサシンは少年こと衛宮士郎に居間へと通してもらえたのだ。

机を挟んで向かい合うように対面している二組。

「えっと、まず聞きたいんだが。なんで貴女のサーヴァントがセイバーとそっくりなんだ？」

ぶつぶつと呟くアサシンを見てから、YOUを士郎は見た。

それについてはYOUもわかりようがない。

アサシンの真名はヒロインXとしか教えてもらえてないので、それが本当に彼女の真名なのかは不明。

「申し訳ありません、それは私にもわかりませんでして……」
「でも、セイバーにここまでそっくりなら関連する英霊なんじゃ」
「いいえ、それはないです士郎。彼女が見せたあの剣は、おそらく……」

おそらく？

と二人してセイバーに聞き返したところである。

「……やはりセイバーを前にして大人しくすることはできません。ましてや私と同じ顔だというのに！」

そう言って、アサシンは今話題に上がっていた剣を取り出しセイバーへとまた斬りかかった。

「アサシン！」
「ご飯よりセイバーです！」
「っ、令呪を以ってアサシンに命じます！　日中でのセイバーとの戦闘を禁じます！」
「そんな!!」

令呪を一画まで使ってアサシンの動きを止めたYOU。

「何故ですYOU！　これ以上セイバーを野放しにしていれば事態は悪化の一方だというのに！」
「何を言っているのですか。日中に戦うのはダメだと言っているのです」
「……なるほど、夜ならいいということですねわかりました」

唐突に始まる何かに士郎もセイバーも目を瞬いていた。

なんの茶番なのだろうか。

しかしYOUもアサシンも大真面目である。

「すみません、お騒がせしてしまって」
「いや、気にしないでくれ？」
「YOU！　夜に備えてご飯を！」
「ご飯抜きと言ったではないですか」
「殺生な！」

ご飯よりセイバーと言ったのはアサシンゆえ、YOUはピシャリと言い捨てた。

この世の終わりかというくらい顔に絶望色を纏い、崩れ落ちるアサシンに食に関してだけは共感を持っているセイバーは哀れみの視線を彼女に向けた。

哀愁を漂わせたアサシンを哀れんだ士郎が何か作ろうかとい言ってしまった。

「本当ですかセイバーのマスター！」

目を輝かせて喜ぶアサシンは、やはりセイバーにそっくりである。

のちに士郎は先程の発言が失敗であったことに気付くのだった。

「……」
「……」

ガツガツと食べる同じ顔。

片や、大盛りのご飯を丁寧は動作で幸せそうに食べ。

片や、差し出された魚の煮付けをこれまた幸せそうに食べる。

「士郎、おかわりをよろしいでしょうか」
「セイバーのマスター、私もおかわりです」

炊飯器にあったお米は二人の胃袋に既に収まっていた。

今は取り急ぎのためにあまり身体にはよろしくないのだが電子レンジで直ぐできるご飯にて、代用をしている。

その間に急いでご飯を炊くのだが、間に合うのかどうか。

「あ、アサシン。私達はお客様だから、その、控えた方が……」
「何を言っているのですかYOU。今、セイバーと大食い競争にて勝負をつけているのですよ？　ここで負けたら私の沽券に関わります」

睨むようにセイバーを見れば、セイバーは美味しそうにご飯を食べていた。

あの様子だと、きっと勝負とは思ってもいないだろう。

むしろアサシンが勝手に勝負だと思い込んでいるだけだろう。

「さぁセイバーのマスター！　私にもっとご飯を寄越すのです！　必ずやセイバーよりも多く食べてみせますよ！」
「いや、むしろそんな必死にならなくても……」

既に作った料理は空。

急ぎ作ったスピードメニューも、きっと二人のブラッグホール並の胃袋によって直ぐに収まってしまうだろう。

このままではきっと彼に多大なる迷惑を掛けるに違いない。

そう判断したYOUはアサシンに提案する。

「アサシン、大食い勝負ならば別の場所でいたしませんか？」
「む？　何故です？」

問いかけつつも、白菜の漬物と共に白米を食べるアサシン。

ほっぺに米粒が付いている。

そっと取ってあげたYOUは更に続ける。

「ここは、ほら？　セイバー陣営でしょう？　敵陣地の中でやるのはフェアではありませんし、セイバーに有利になってしまうかもしれません」
「それを正々堂々と倒すのが私です」

大食い勝負を正々堂々と言っていいのか。

「わ、私としてはもちろんアサシンが勝つとは思うのですが、万が一ということがございます。ですのでいつものあの場所にて決着を付けられてはどうでしょうか？」
「……ふむ、一理ありますね。わかりました。その案、受けましょう」

その一言にYOUはほっと息を吐いた。

正直このままではこの家の食材という食材を食い尽くすのではないかという恐れがあったからだ。

士郎を見れば、同じくほっと息を吐いていて。

この判断が正しかったことが証明される。

美味しく白米を食べているセイバーに、食べ放題の勝負をと改めて言っているアサシンを尻目にYOUは空になっている食器をシンクへと持っていくのだ。

「助かりました……」
「あのままでは食費が大変なことになりそうですからね……」
「……あはは」

既に大変だとは決して言えない士郎である。

使った食器を洗い、元の位置に戻したセイバー陣営とアサシン陣営。

向かうは食べ放題の勝負ができる場所。

アサシン陣営御用達の三時間食べ放題ができるホテルレストラン。

「いら、あ……」
「こんにちは。四名で、貸し切りをお願いしたいです」

にこりと笑って鞄から黒いカードを見せて笑うYOU。

いつも貸し切りでアサシンに食事をさせているために店側からしたらYOUは上客扱い。

ちなみに一度は出入りを禁止されそうになったのだが交渉で毎度満席分の料金を支払いっているため、いまだに出入りを許可してもらっているのだ。

今いる客が全て引き、ようやく準備が整ったため四人は再度入店した。

ホテルマンにいつもの説明を受けたアサシン陣営と、様々な食べ物に目を輝かせているセイバーと、YOUのお金の使い方に引きつった表情をしている士郎は、開始の合図と共に同じ顔が並ぶ料理の方へと駆け出した。

「えっと、YOUさん」
「はい、なんでしょうか？」
「いつもアサシンとここで食事をされているのですか？」
「はい。御覧の通りアサシンは物凄く食べますので」

大量に料理を持って帰ってきた二人はそれはそれ美味しそうに、幸せそうに頬張っている。

見ているこちらに幸せになるくらい。

「普通のお店で食べたら、もう金額が凄いことになりましたので……」

ロード・エルメロイが請求金額を見て怒られたことは、YOUにとって嫌な思い出である。

言っておくが、満席分の料金をこう何度も何度も支払っていてはいつか怒られるという未来を迎えるのだが、果てして彼女は気付いているのだろうか。

おそらく気付いていないだろう。

近い未来、請求金額を見たYOUの実兄からお叱りのお電話を受けることになるのだが、それはまた別のお話である。

ハンバーグを美味しそうに食べるアサシンとセイバーは、嗜好が似通っているに違いない。

「ただ、あれだけ幸せそうに食べていらっしゃるので、かわいそうだなって思ったので」

なのでバイキングやビュッフェにへと落ち着いたのである。

「そ、そうなのですね……」
「はい。あ、士郎くんもどうぞ食べてくださいね。先程ご飯を食べてらっしゃったのでそこまでお腹は空いていないかもしれませんが、とっても美味しいので」

そう言ったYOUは紅茶を飲むためにドリンクカウンターへと向かう。

その背中を見て、幸せそうに次はパスタを食べている二人を見て、まぁいいかと思う士郎。

考えることを放棄した訳ではない、と念のため明記しておこう。

彼も軽く摘めるものを取りつつ、お茶を取るために席を立つ。

世間話をしつつも一進一退、むしろただ食べられることに至福を感じていそうな二人を見ては微笑ましげに笑った士郎とYOU。

結局は勝負は決着がつくこともなく、引き分けで終わった。

「やるではありませんか。しかし次は負けませんからね」
「えぇ、こちらこそ。美味しい料理をありがとうございます」

微妙にズレているのだが、気にしてはいけないだろう。

堅い握手をしたのち、満足そうに二人は笑ったのである。

(謎のヒロインXの場合end)

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