全身武装した白い骸骨の仮面を付けた誰か

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現れたのは十年前の聖杯戦争で、アサシンのサーヴァントが付けていた白い髑髏の仮面を付けた誰かだった。

「サーヴァント、アサシン。喚び声に応じ召喚された。怯えるな契約者よ」

声は何処と無くそのマスターであったキレイ・コトミネに似ていると感じながらも、YOUは首を横に振り右手を差し出した。

「怯えていませんよ。応えていただきありがとうございます。私はYOU・エルメロイ・アーチボルト。貴方のマスターです。アサシンの真名を教えていただけませんか？」
「山の翁。しかし、召喚に応じ姿を晒した我に名はない。呼びやすい名で呼ぶがよい」

YOUは首を傾げてしまう。

山の翁という名前があるのに名がないとは随分と不思議なことを言う英霊である。

いや、山の翁というものはただの通り名なのかもしれない。

ならばとYOUは考えた。

彼は山の翁と言っていた。

ならば。

「では、グランパと呼ばせていただきます」
「……よかろう」

グランパ、グランドパパの略称。

所謂、お爺さんに言う名称である。

いいのかそれで、と第三者がいれば言うだろうが幸か不幸かこの場にはYOUとアサシンしかいないため誰もつっこめないのであった。

そのような初コンタクトを経たYOUとアサシン。

現在、長らくのフライトを終えYOUは十年振りに日本の冬木市に到着した。

欠伸を噛み締め、無事に言峰教会に参加表明をし終えた後である。

拠点となるあのマンションへと、見た目以上に重いキャリーケースを引きながら向かっていたYOU。

記憶を頼りに見覚えがあるようなないような道を歩き、交差点の赤信号で足を止めていた時。

「！」

一瞬YOUは自身の目を疑った。

ーーどうした契約者。
「……ランサー？」

視線の先に、横断歩道を渡った向こう側にありえない人物が歩いていったのだから。

思わず追いかけようと一本車線の中へ踏み出そうとしたところ、車にクラクションを鳴らされて戻るしかなかった。

ーー敵を見つけたのか契約者よ。
「(いいえ)」

アサシンの問い掛けに短く返すのは心に余裕がないからだろう。

長く感じてしまう赤信号がようやく青に切り替わった途端にYOUは駆け出した。

重いキャリーケースを煩わしく思いつつも、見知ったその背に追いつくため。

「ランサー！」
「！」

追い付いた男性の手を掴む。

その人物は驚いたようにYOUの方を向く。

「え？　何か？」
「……」

それは背格好がよく似た全く違う人物であった。

人違いであったことをに、間違えてしまったその男性に謝罪したYOUは肩を落としながら踵(きびす)を返し、マンションへの道を歩いた。

ーーどうしたのか契約者よ。
「(……会えないはずの、知り合いだと思ったのですグランパ)」

明らかな落ち込み具合にアサシンはどう投げ掛けるか悩んだ。

しかし悩むより先に念話を投げ掛けるべきだろう。

その角で誰かとぶつかる、と。

「！」
「！」

誰かとぶつかった。

ぶつかった拍子に相手の荷物がアスファルトの上に落ち、中の本や紙等が道に飛び出してしまったのである。

「っ、ごめんなさい！　拾います！」
「いえ、此方も前を向いていなかったのもありますから」

慌てたように広がった本や紙を拾い集め、砂埃付いたものに関しては軽く払い落としてからぶつかってしまった相手に向き直り、差し出した。

「本当にごめんなさい」
「……」

どうやらYOUがぶつかった相手は学生らしい、

赤いコートに長い黒髪に黒いリボンがチャームポイントな、青い目が綺麗な少女であった。

しかしその青い目が一瞬鋭くなったことにYOUは気付いた。

「あの？」
「……いえ。拾うのを手伝って下さりありがとうございます」

だが少女は直ぐに表情を変えて、にこりと笑うと差し出された荷物を受け取ったのだ

「いえ、こちらこそぶつかってしまい申し訳ありません」
「お気になさらないでください」

それではと、荷物を鞄の中に直した少女はYOUに会釈をしたのち、YOUが歩いてきた方へと進んでいったのである。

YOUも、次は前を向いておかねばと思いつつもやはり先程のショックは大きいらしい。

落ち込み気味のままキャリーケースを引いて目的地へと歩みを進む。

しばらく歩いていればアサシンが念話でYOUを呼ぶ。

「(？　どうかしましらかグランパ)」
ーー後を付けられている。
「(え？)」

思わず振り返れば先程別れた赤いコートの少女が少し後ろを歩いていたのである。

「何か私に御用ですか？」

まさかに人物に目を瞬かせつつ尋ねるとどうやら此方方面に用意があったらしい。

「すみません。まるで後を付けているようですね」
「気になさらないでください。でしたら別れるまでお話ししながら歩きませんか？」
「ではお言葉に甘えて」

にこりと笑った少女はYOUの隣にくると、お名前を聞いてもいいかと問う。

「YOU・エルメロイ・アーチボルトと申します」
「！」
「貴女のお名前は？」
「……遠坂凛と申します」
「！」

双方お互いの名前を聞いた途端目を細めるなり見開くなりの反応をする。

エルメロイは時計塔の君主(ロード)の内の一人。

遠坂は聖杯戦争の御三家の内の一つ。

お互い少し距離を置くようにそれぞれ歩みを止めた。

「協会枠の方だとは知らなかったわ」
「……(グランパ、この近くにサーヴァントの気配はしますか？)」
ーーいや。
「しかもエルメロイだなんて。でも聖杯は私が手にするのだから。始まったら首を洗って待ってなさい。正々堂々戦って勝つのだから」

ジロリとYOUを睨み付けた少女は、そう言い切ると来た道を走っていくではないか。

「……え？」

目を瞬かせる。

何故去っていくのか。

ーー契約者よ。周囲にはサーヴァントはいない。
「……なるほど」

もしかしたら彼女はまだサーヴァントを召喚していなかったのかもしれない。

戦闘が始まるのかとドキドキしていたYOUはほっと息を吐いたのであった。

(山の翁の場合、end)

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