【カゲプロ】病める彼らの救い方【糖度1％】

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「救えないよ」 - 2024年5月1日

* 椿美星さまリクエスト
( 焼き付ける彼の話 / 心中 )


外からの光が遮断された暗い部屋の中。
唯一の光源であるパソコンのディスプレイが、彼の持つ銀色を鈍く輝かせる。


「し、シンタロー……？」


名前を呼べば空中を漂っていた瞳が私の姿を捉えた。
それは底が見えないような黒色で。

思わず下に敷いてあるシーツを掴む。
下はベッド、上にはこちらを見るシンタローの顔。
言うなれば私は今、シンタローに押し倒されている状態。


(どうしてこんな状態になっているのだっけ、)


ぐるぐると渦巻く疑問は、首に添えられた手によって掻き消される。
低体温である彼の手はひんやりと冷たい。


「外の世界ってさ、汚いんだよ」


唐突にこぼされた言葉。
その意味がすぐには理解できなくて、頭の中に疑問符が浮かんだ。


「汚い？」
「ああ。欲望、犯罪、偏見、差別、嫉妬……汚いものばかりが支配してんだ」


眉を寄せて忌々しそうに吐き捨てる彼は、見たことがない。

そんな彼は「まあでも、」と言葉を付け加えて。
一変して自嘲気味な笑みを浮かべた。


「俺が言える立場じゃねえけどな」


首筋に冷たいものが押し付けられる。
それはさっき彼が持っていた、銀色に光る鋭利な鋏。
喉がひゅ、と変な音を立てた。

彼は、シンタローは、なにをするつもりなのだろう。


「俺はな、YOU。お前に綺麗なままでいてほしいんだよ」
「綺麗、って」
「外の世界の汚れに、染まってほしくねえんだ」


冷たい感触が首筋をなぞるように這う。
それは今にも私の首を切ってしまいそうで、怖い。


「綺麗なまま、永遠に二人で生きられる場所なんて、この世界にはないよな」


確かに、ないのかもしれない。
生きていればその世界の汚さに染まっていくだろうし、永遠に一緒なんて、この世界ではきっと不可能だ。


「だから、誰にも邪魔されないところに二人で行こう？」


その言葉の意味はすぐに分かった。
彼がなにをしようとしているのかも、分かっていた。


「いや、だ」


恐怖で張り付きそうな喉の奥から必死に声を絞り出す。
嫌だ、やめて。
私はまだ、死にたくない。

小刻みに震える体。
それに気付いた彼は、私の頬をするりと撫でて。


「ああ。そんな怯えんなって。大丈夫だ、痛くないようにするから。それに」


光のない真っ黒な瞳でこちらを見つめたまま、ゆっくりと手を持ち上げる。


「俺もすぐに後を追うから、な」


そう言って穏やかに笑った彼は。
鋏を降り下ろした。

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