[忍たま]この想いを華に代えて＊日替わり

5種類の結果パターン

今までも、これからも、そして誰よりも。 - 2024年5月13日

綾部喜八郎

＊

日差しがしとやかに降る午後。
YOUは喜八郎と他愛も無い話をして歩いていたが。

「ねえ喜八郎、聞いてる？」

「んー」


彼の口から返ってくるのは、否定とも肯定とも取れない返事。
YOUは呆れて言葉を失ったので、空を仰ぎ見る。

すると喜八郎に、くいと軽く袖を引かれた。



「YOU、そこ危ないよ」


え、とYOUは声をあげて足元を見やる。
そこには何の痕跡も見受けられないが、喜八郎のことだ、仕掛け罠でも作ったのだろう。

YOUは袖を引かれるまま半歩横に移動する。







それが誤算だった。


「ぎゃあああ！」

次の瞬間、YOUの踏みしめた足を地面が呑み込む。
抗うように腕を振り上げるも、あっという間に暗い闇の中に落とされてしまった。


「いったた…」

YOUは落とし穴の中、強く打ち付けた腰をさすって顔を上げる。
楕円の空から溢れ出るお天道様の光が眩しく、思わず目を細めた。

逆光でよく見えないが、見下ろした喜八郎は口元に意地悪く笑みを浮かべている。
どうやらこれは彼の意図的なものだったらしい。




「急に何するの！」

文句の一つ吐いてやろうと口の端を泳がせると――――





その顔面に、
ふわりと柔らかに何かが乗った。

「うわっ！」

「だーいせいこう、だね」


穴の外で伸びやかに放たれる声を訝しげに思ってから、
YOUは目元に掛かった物を僅かにずらす。

見えたのは、小さな花弁の冠。


「シロツメクサ…？」


しかしその冠の結び目は荒く、描いた円も所々が歪んでいる。
細かい作業を嫌う喜八郎が、それでも丹精込めて作ったものだった。

YOUは真っ白な花弁を見詰めながら、心が熱くなるのを感じた。







「ふふ、やっぱりYOUに似合う」


その言葉に見上げると、喜八郎は穴の淵に頬杖をつき、満足気に見下ろしいた。
YOUは冠を抱え、はにかむように笑って見せる。

その笑顔を見た喜八郎は、無表情のまま一瞬そっぽを向いた。
しかし堪え切れなくなったのか、ひょいと身を躍らせ、穴の中のYOUの隣に降り立つ。


「ほら、ちゃんと被って」

「え、あ」


喜八郎はYOUが持ったままの冠を取り、YOUの頭にそっと乗せる。
同時にYOUの腕を引きよせ、自分の胸に埋めた。


「YOUと居る時間が、一番好き」




耳元で紡がれた言葉。

零れ出た、変わらぬ想い。







ずっと隣に居て。


・

≪シロツメクサの花言葉…私を想って≫

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