今日のアーサーさん

29種類の結果パターン

Thank you for reading!! (*言ω言)ﾉｼ - 2024年5月11日

お人形アーサーさんが、本日のお相手
精巧なドールは、心を知らないわけで。


街外れの小さなアンティークショップ。
そのレジの奥にちょこんと座っている青年は、血潮を巡らせていない。
彼は人形。昔々のそのまた昔、腕のいい職人に作られたビスクドールだった。

翡翠の瞳に、稲穂のような金髪。
白磁の肌に見える球体は、彼の身体を一層人間らしくする。
指の一本一本にさえも、職人の魂が込められているよう。

まるで、生きた人間だ。

それがYOUの抱いた印象だった。
初めて見たときは、それはそれは驚いたものだ。
人かと思えば、命を持たない人形で、かと思えば動くではないか。
瞬きをしてみせた彼に、肩を震わせた覚えがある。
後ろで操っていた老店主は、さも可笑しそうに笑っていたけれど。

「彼の名前、なんていうんですか?」

気が付けば、店主相手にそんなことを口走っていた。
口元と顎の下に白い髭を蓄えた老人は、ゆっくりと教える。

「アーサー。……それがその子の名だよ」

優しい口調で発せられたその名は、彼女の心にジワリと染みた。

西向きの窓から差すオレンジ色が、彼の翡翠の瞳に反射する。
妙な煌めきをその目に湛えて、人形は微笑んでいた。

以来、毎週金曜日の夕方。
帰りに少し寄り道をして、この店に入る。

「今日も遊びに来たよ、アーサー」

彼は言葉を発さない。相槌も打たないし、店主がいなければ瞬きだってしない。
それでもYOUは彼の隣にある安楽椅子に座って、お喋りを続ける。
椅子は店主が置いてくれたものだった。
アーサーの視線は、常に西向きの窓の外へと向けられていて、
それは何かを見つめているようだった。

「何を見ているの?」

瞳を覗き込むけれど、そこに映るのは橙色の夕陽と、
興味深げな顔をした自分だけ。

ああ、私は彼と一緒にいるときこんな表情をするんだ。
こんなに嬉しそうにしているんだ。

やがて時間は流れて、閉店を告げるオルゴールが店内に鳴りはじめる。
椅子から立ち上がって、愛しいドールにさようならをした。

「いつも、ありがとうね」

店を去る間際、ドアのところで店主にそう呼び止められた。
レンズの奥で細められた目。幸せそうだな、そう思った。

「お嬢さんが来てくれるから、あの子も嬉しいだろうよ」

そう言って、老人は彼の方に目を向けた。相変わらず、窓の外を見ている。
こちらこそ、お礼を返すと、「またおいで」との言葉があった。


ええ、もちろん。愛しい彼のため。ドールのため。

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アーサーさん、本日の一言

「周りの人間の言葉じゃなくて、お前の言葉で伝えようとしろよ」

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