10種類の結果パターン
今日のお話 - 2024年5月8日
「おはよう。また来たよ」
「......」
檻の中の彼女が足を引きずって近づいて来る。
「またなんか打たれたの?」と声をかければこくりと頷いた。
誰もいないかもう一度確認して、檻の隙間から片腕を入れる。
頬を撫でると、彼女は嬉しそうに目を細めた。
生きているのかどうか疑いたくなる程、真っ白な肌。
同じように色素の抜け落ちた、洗ってもらえずに汚れた髪。
年はもう六十になるはず。しかし発育の止まった身体は、幼い子供にしか見えない。
「...明日、ね」
「......」
「YOU、ここから出れるんだよ」
声が出なくなったのはいつだろう。彼女は感嘆の声を上げることなく、口をはくはくと動かした。
まるで猫のように、掌に彼女が頬擦りをする。その整った顔をただじっと見つめていた。
出られるなど、抽象的にも程がある。確かに彼女はある意味解放されるが、そのあとは無い。
彼女は、研究のための実験台だった。
身寄りの無い子供など、当時は溢れかえっていたから。研究者の気まぐれで彼女は選ばれた。
あの時にのたれ死んでいた方が、彼女が苦しむことは無かったのかも知れない。
長く使えるようにと、国である自分が近づいた。そして彼女は今も実験台として、生き続けている。
人体実験など人に知れたら大騒ぎになる。だから彼女はこんな地下に数十年も幽閉されているのだ。
そして昨日、実験の抹消が決まった。
書類は全て燃やされ、関わった人間は一部以外全員消される。
彼女も勿論。
「......YOU」
「......」
「明日じゃなくて、今日にしようか」
微笑みかけると、彼女はまた笑った。
まずは風呂に入れさせて、身体中洗ってあげよう。髪も綺麗にして、リボンで結って__
そして一緒にご飯を食べよう。美味しいのを、沢山。
利用されて棄てられるなんて、あんまりだろう。
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作者名:こも | 作成日時:2015年2月28日 22時