[RKRN] 唇と恋 [日替]

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愛していました、と - 2024年5月14日

[ 斉藤タカ丸 > 髪 ]



ぐず、と鼻をすする。

こんな不細工な面を彼に見られたくなくて、火薬倉庫の裏まで走って来た。
周りに誰も居ないことを確かめると 蹲る。膝の間に顔を埋める。


___悔しかった。
わたしが今までにしてきたこと全部 無駄だったと思うと、いっそ消えてしまいたくなった。





『…どうしたんだ、その髪』





わたし、きっと恋をしていた。

一年は組のよいこ達の担任で、よく胃を痛めてて、よく怒鳴り声が学園中に響いていて、でも笑うと とびきり可愛いひと。

先生だった。
叶わぬ恋だと、理解しているつもりだった。

背伸びをして、髪を黒から焦茶に染める。『土井先生の好きなひとは茶髪で背の高い歳上の女性』、そんな何処にでもあるような噂に踊らされての決断だった。
ほんの少しくらい 振り向いてくれるかな、だなんて。




『元の色に戻しなさい。
君は学生だ。学生らしくしなさい』




正しく 突き放された気がした。
だから背伸びなんてやめて黒髪に戻してやった。相変わらず言うことを聞いてしまう自分が憎い。

綺麗に手入れした爪も、必死で伸ばした睫毛も、今は全部 憎くてしょうがない。


___足音がする。
深紫色の装束が視界の端を掠めた。





「…綺麗な黒髪」
「……わたしには、タカ丸さんの金髪の方が綺麗に見えますけど」
「ぼくにはそう見えないけどなぁ」


泣いちゃだめだ。泣いたら負けだ。
そう思って、此処まで来たのだ。
下唇を強く噛んで、堪える。でも、紡ぎ出した言葉は今更とまらない。




「…たか、まるさん」

「なぁに ? 」

「ほんと、ほんとはね。わたしも黒髪の方が好き。それに似合わないことくらい分かってた」

「…うん」

「だけど、先生が 茶髪の女の人が好きって言うから…染めたの」

「……うん」

「ねえ、タカ丸さん」

「……なぁに ? 」






「どうして、あなたが泣くの」

「YOUちゃんが、泣かないから。
… だから代わりに泣いてるの」






もう、我慢なんてきかない。ぼろぼろと堰を切った様に涙が溢れ出す。装束に色濃い染みを残していく。

小さな子供みたいに泣きじゃくるわたしの髪に、薄い唇が口付けた。

わたしが今までしてきたことを、全部肯定するみたいに。優しく、やさしく。
「黒髪のきみが好きだよ」だなんて、なんて酷い告白なんだろうと思った。




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[ 髪 ] 思慕
(あまい呪い)




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