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「人間にも、俺たちにも、心はないよ。あるのは魂だけ。人間が心や感情と呼ぶものは全部、魂の代謝にすぎない。」
真人の手が包帯越しに私の目元に触れた。少しの間黙って真人私のまぶたの上を撫でていた。
「夏油にも分かってはいないみたいだけど、俺にはわかるよ。A。君は他のどの人間や呪いとも違う。」
真人はまるでおだやかに語りかけるように話した。
「君は呪力や術式ではなく、魂そのもので生きて、戦っている。あの時俺が見たものそう。君の放つ力は魂の力そのものだった。それを見て、俺の魂は揺さぶられた。」
そこまで言って、真人は笑った。
「俺の魂がAの魂に惹かれたんだ。これを恋と呼ばず、なんて呼ぶの?」
その言葉を聞いて、私は少しの間言葉を失った。真人は前に言った。真人には魂の形が見えるのだと。それは五条悟のように呪力が見えているのかと思っていたけれど、違う。
こいつは、呪力なんかじゃなくて私の本当の中身を見ている。誰も知らない、野薔薇も、五条悟も、私自身も知らない、私の中身を。
「は、はは。」
カラカラの喉で私は笑った。
「そう、ですか。そうですか。」
私は下を向いた。いつの間にか吹き出した汗が首筋の形に沿って下に流れていった。
「……ひとつ、聞いても?」
「なんでもいいよ。」
真人は優しい声でそう言った。真人のことをすこし理解した今、私はすこしだけこの呪霊を信頼した。だから、この人から私自身のことが聞きたかった。
「私はあと、どのくらい持ちますか。」
私の質問に対して真人はすぐに回答せず、少し間を置いた。
「それは君の魂の話?」
私が頷くと、真人はうーん、と唸った。
「それは正直僕にもよくわからない。君の魂は普段はとても小さく灯っているからね。でも、その拘束が解ければ、あと十数回くらいは死んでも問題ないんじゃない?目の方はもっと使えるかもね。」
真人はそう言った。死んでも問題がないのは十数回まで。はっきりとしていない数字だけれど、一度完全にぐちゃぐちゃになった私を見ている真人が言うのだから、それくらいなのかもしれない。
「でも、きっとそろそろ始まるよ。」
「何が。」
私が聞くと、真人は拷問、と呟いた。
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しょーどくえき - わ!すっごくおもしろいです!続きがとても楽しみです!頑張ってくださいね! (2021年6月20日 16時) (レス) id: 5790125387 (このIDを非表示/違反報告)
猫かぶり - 今は死滅回遊ですよ!!!続きがとても楽しみです!!! (2021年5月21日 20時) (レス) id: 94bc23990d (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - 無気力なおバカさん» コメントありがとうございます!この展開は読者様には不評かも、なんて考えている折だったので、これからの展開が楽しみというお言葉に救われました!更新頑張ります。 (2021年1月2日 23時) (レス) id: c6d1d3b3eb (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - 糸野さん» コメントありがとうございます!スリルのあるなんて素敵な言葉をいただけて嬉しいです。更新が滞っていますがこれからもドキドキさせられるよう頑張ります! (2021年1月2日 23時) (レス) id: c6d1d3b3eb (このIDを非表示/違反報告)
無気力なおバカ - 面白いです。これからの展開がすごく楽しみです。キャラ達の関係とかもすごく好みです。更新頑張って下さい! (2021年1月2日 3時) (レス) id: 9900cccf42 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:柑橘 | 作成日時:2020年11月28日 17時