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それから私はしばらくその部屋で不毛な時間を過ごした。
ある時は呪霊がふらっと現れて私を吟味し、これが件の魔女かと呟いていなくなった。
またある時は夏油が私の前に来ては、まだ生きているかと呟いた。こちらに呼び寄せておいて存在すら忘れていたのではないのかと勘ぐったが、真人曰く夏油は私が私として生きているかどうかを確かめているらしかった。
そして真人はいつも、いつの間にか私の前に現れては部屋に居座り、自由気ままに過ごした。
私に話しかけることもあれば、私のそばで本を読んだり、気まぐれに飯を食べさせたり、私の分析をしたりしていた。呪霊は人間と違って大層お暇なのかもしれない。
「Aはさ、愛の反対は無関心だと思う?」
唐突にそう語りかけてきた真人に対して、私はその考えを強めた。こんな飲み会でもたいして盛り上がりもしなさそうな話題を振ってくるあたり、本当に暇そうだ。
「まだ愛だの恋だのと考えていたんですか。」
私は長い長いため息を吐いた。
「前にも言いましたが、もう一度お伝えしましょう。」
ここに来たときに真人に一度言った言葉を、私は繰り返した。
「私の目の能力は、目を見た相手の生命活動を止めるものです。平たく言えば、目を合わせた相手の心臓を停止させる能力です。」
それが私がある時見つけた、自分自身の能力だ。視線に乗せる力の量によって威力は変わるから必ずしも生命活動を止めるわけではないけれども、真人に向けて放った視線は、確実に殺すためのものだった。
「あなたは一度私に殺された。その時に起こった、心臓が止まった現象を、恋の芽生だと履き違えているあなたは、本当に滑稽です。」
私の言葉に真人は少しの間黙った。おそらくは、私の意見を踏まえて思考してみたんだろう。そして考えがまとまった頃に、真人は言葉を発した。
「ううん。やっぱり違うよ。俺はAに恋をしている。」
ここまで来て、まだそんな戯言を言うのか、と私は歯を噛み締めた。
「心なんてないくせに。」
「その通り。」
真人の意見を否定する言葉を、真人自身が肯定したことに驚いて奥歯を噛み締めていた力を緩める。真人は一歩ずつ、ゆっくりと私に近づいた。
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しょーどくえき - わ!すっごくおもしろいです!続きがとても楽しみです!頑張ってくださいね! (2021年6月20日 16時) (レス) id: 5790125387 (このIDを非表示/違反報告)
猫かぶり - 今は死滅回遊ですよ!!!続きがとても楽しみです!!! (2021年5月21日 20時) (レス) id: 94bc23990d (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - 無気力なおバカさん» コメントありがとうございます!この展開は読者様には不評かも、なんて考えている折だったので、これからの展開が楽しみというお言葉に救われました!更新頑張ります。 (2021年1月2日 23時) (レス) id: c6d1d3b3eb (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - 糸野さん» コメントありがとうございます!スリルのあるなんて素敵な言葉をいただけて嬉しいです。更新が滞っていますがこれからもドキドキさせられるよう頑張ります! (2021年1月2日 23時) (レス) id: c6d1d3b3eb (このIDを非表示/違反報告)
無気力なおバカ - 面白いです。これからの展開がすごく楽しみです。キャラ達の関係とかもすごく好みです。更新頑張って下さい! (2021年1月2日 3時) (レス) id: 9900cccf42 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:柑橘 | 作成日時:2020年11月28日 17時