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俺はどんな顔をしていたのだろう。気がつけば、織慧さんが俺をじっと見上げていた。
「ど、どうしたの?」
慌ててそう問うてみる。けど、それでもしばらく、彼女はじっと俺を見つめていた。かと思えば、やがてふっと笑みを浮かべ、今までの比じゃないくらいに声を上げて笑い出した。それこそ、後ろのみんなが口をつぐんで、先頭の俺達に注目するくらいに。
「ふふっ……ふふふっ……あはっ、あははははは!!」
「なっ、なんだよアイツ、急に笑い出してっ、気持ち悪っ」
守くんが言ったけれど、彼女は気にも留めない様子で俺に視線を戻した。
「ねえっ、桐山くん。私やっぱり貴方が好きよ。貴方になら私、例え何があっても協力するわ」
そう言って彼女は、何がおかしいのかまたしばらく、口元を覆う両の手から僅かに声を漏らして笑っていた。
言葉を失う俺達の事はやはり気にする様子もなく、顔を上げた織慧さんは気を取り直した様子で「さあ、」と一歩、二歩と歩いた。
「行きましょう。あるかも分からない出口を探しに」
いつの間にやら止めてしまっていた足を動かして、慌てて俺は先を行く彼女に追いつこうと小走りで駆けた。
『貴方が好き』。そう面と向かって言われて、こんな状況なのにも関わらず少し胸に違和感を感じてしまっている俺がいる。でもまあ、そんなはずはないよね。織慧さんがまさか、本気で俺のことを好きだなんて。
今さっきまた話をして、その瞬間に惚れられたとでも言うのか。そう考えると、やっぱり違うよな、と自分を安心させることが出来た。織慧さんが嫌いな訳じゃない。むしろ、頼りにしたいし、それ以上にされたいと思ってはいる。でも、こんな状況だし。何より──。
無益な思考をぐるぐると続けてしまう自分に嫌気が差して、小さくかぶりを振る。とりあえずは、出口があるかだけ、きちんと探さなくちゃ。みんなが帰りたいなら、俺も協力する。……あるかどうかは、あまり、信じていないけれど。
もしダメだったら、その時は俺がみんなを楽にしてあげるんだ。
『聡迷ッ!やめて!』
『嫌っ、いやだあ!お兄ちゃ、がっ……かひゅ……っ』
力の掛けられた首の軋むような音。もはや懐かしいとさえ思える、家族の声。汗ばむ手の感触。あまり思い出したくはない、白目を剥き口から泡を吹き出しただらしのない顔。嗚咽。
あれらを、また味わうことになるとしても。俺もみんなも、苦しいのは一瞬だけだから。
ただ、最期までみんなの力になりたい。
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